タグ「小説」のついた投稿作品一覧(208)
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銃。それは私が持っている知識の中で、数少ない嫌悪と恐怖を示すもの。
艶のない黒一色に覆われたおどろおどろしい外見は異様な空気を纏い、手に取ればその見た目以上の重量が手の平から体の芯に食い込む。
弾丸を込め、機関部に初弾を装填したときの金属音は、威圧的に刺々しく耳に刺さる。
そして引き金を引い...THE END OF FATALITY第八話「Close Quarters Combat」
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高度五万フィートを飛行する空中巡航護衛艦ネブラに侵入して数分。
神経を張り巡らし、硬く銃を握りしめ、一歩一歩探るような足取りで、私は格納庫から機首側へと向かう通路に足を踏み入れた。
通路は思っていたより狭くはない。普通の軍艦の様な狭さを想像していたけど、それに比べたら地上の施設と変わらないみた...THE END OF FATALITY第七話「異形の獣」
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ネブラに何とか着艦した私は、まともに身動きがとれないまま、着艦の際に空中で私のスーツを掴まえたアームによってエレベーターに固定され、ネブラの奥深くへと取り込まれていった。
少し戸惑っていると、ランスからの無線が入った。
「レーダーやソナーで確認した限りじゃ、生体反応も熱源反応もない……。」...THE END OF FATALITY第六話「私」
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午後3時30分。すでに黄金色に染まりつつある高度6万フィート上空を、私は亜音速の速度で飛行し続けた。硬いスーツ越しでも、風が摩擦し、体を締め付けるGの感覚が心地よい。
しかし、あまり自由な飛行を楽しんでもいられなかった。ディスプレイに表示された通りの航路を飛行しなければならないし、高度も速度も固...THE END OF FATALITY第五話「Enemy In Bound」
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微かな振動が響き渡る中、無線から博貴の声が聞こえ、同時にバイザーの中のモニターに博貴の顔が映し出された。
「大丈夫……良好だ。」
あの基地でスーツを装着した私は、その後すぐにアンドロイド搭載用のステルス輸送機に搭載され、急ぐように空へと打ち上げられた。バイザー内に表示された高度計には、現在...THE END OF FATALITY第四話「再飛翔」
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その施設は、大きなドームとそれを繋ぎ合わせる通路だけで作られており、どうやら間に合わせで急に立てられた仮設基地のようだった。ただの広大な空き地に、わざわざこんなものを建て上げたのだろうか。
敏弘さんと別れた後、空軍の制服の人は「どうぞこちらへ。特殊作戦作戦指揮官と技術主任までお取次ぎいたします。...THE END OF FATALITY第三話「黒い翼」
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あの事件の直後……壮絶な非日常から帰ってきた僕らを待ち受けていたのは、何事もなかったかのように、そしてプログラムされたように普遍的な日常とそれに対する疑心暗鬼だった。
僕はあの事件から生還した直後、口封じでもされるかのように、地下研究所への異動と急務を命じられ、心の支えであるミクと一ヶ月間会うこ...THE END OF FATALITY第二話「過去の者」
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あれから数分が過ぎた。……と思う。携帯電話も完全に動かず、時間なんてとても分からない。それに、もう私にはそんなことはどうでも良くなっていた。
こんな暗いところに閉じ込められて、博貴と話すことも出来なくて、私はもう無理に外に出ようとせず、止まる気配のない貨物エレベーターの隅でうずくまり、駆動音が出...THE END OF FATALITY第一話「闇から見上げる兆し」後編
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闇の中では目には何も映らない。しかしエレベーターの中には、低くお腹のそこに鳴り響くような機械音が鳴り響いていた。
私を閉じ込めたまま黙り込んだエレベーター何分か経った後、息を吹き返した様に突然動き出して、私がいくらボタンを操作しようと全然反応しないまま、ひたすら上へ上へと登っていた。
携帯...THE END OF FATALITY第一話「闇から見上げる兆し」中編
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まただ。またあの夢だ。もう何度この夢を見た、いや、感じたことだろう。
眠りについたはずなのに、誰かが私を呼んで、引き寄せている。声でも音でもないもっと曖昧な感触が、暗闇の中から私に向けて発せられてる。これは何の夢なんだろうか。ただ私を呼ぶ、それだけの夢。意識は朦朧としていて、その感触が何なのかと...THE END OF FATALITY第一話「闇から見上げる兆し」前編
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―Ostendo primo conditionem hominum extra societatem civilem (quam conditionem appellare liceat statum naturae) aliam non esse quam bellum omnium cont...
THE END OF FATALITY PROLOGUE
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柔らかい間接照明の部屋には、まるで死んだように青ざめた顔の彼がベッドに横たわっていた。その手に恐る恐る触れると、ほのかに、指先が私の手を握り返した気がした。
握る手に少しだけ力を込めると、震えるように私の手の感触に反応を見せてくれた。...Eye with you最終話「僕には君が、貴方が私が」
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あの時、実験が終わる頃にはすでにミクの体力は限界に近づいていた。そして戦闘が始まる頃には、ミクの脳波が異常な数値を示し全身に凄まじい負荷がかかっていた。応答にも答えず、ひたすら目前の敵を撃墜していくミクには、すでに意識が混濁し、ナノマシンの発する命令によって体を突き動かされていたらしい。あれから半...
Eye with you第三十一話「カウントダウン」
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青と白が入れ替わる。一回、二回、緩やかに円を描いて空気の中を泳ぐ。
息を吸って、右旋回。吐いて、降下。レバーを握るんじゃなく、仄かに触れるように扱い、大脳の中枢から極細のグラスファイバーケーブルを伝い、時速数百キロの風を受ける翼を感じて空を飛ぶ。
その時一度、胸の音が高鳴る。耳元で血は騒がしく...Eye with you第三十話「Sky of Black Daemon」
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良い空だ。今日は、思わずその蒼さに手を浸したくなるような、いっそのことそのまま溶けこんでしまいたいと、そんな逃避を思い浮かべるほどの晴天。目前に広がる清々しい光景を、僕は遠い目で見据えていた。伸ばしたところで届くはずもない。ここは晴天どころか地中深く閉鎖された場所にあるのだから。目前にある晴天は、...
Eye with you第二十九話「偽りの空」
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≪スコシ、セイシンノ、ミダレガアルゾ。≫
「乱れ・・・・・・。」
不思議だ。何も無い場所で、何も見えないのに、電気が喋りかけてくる。
≪オマエノセイシンニ、ワズカナ、ヘンカガオトズレタ。イママデダレモナカッタコトダ。モチロン、アレモナ。≫
「私がどうかしたのか・・・・・・。」
≪ミョ...Eye with you第二十八話「前日」
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先日の実験から、もう半日が過ぎただろうか。
精神的に憔悴し、自重を支えることもできなくなった僕は、ミクの眠るアンドロイド調整用ベッドに倒れかけていた。先の実験で予想外の負荷がかかり、休止を余儀なくされたミクの寝顔に寄り添うように。
そうして時間を浪費しているうちに、部屋の玄関からブザー音が鳴り...Eye with you第二十七話「銃と人」
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殺伐とした白い場所、VR実験場を見下ろす観測室で、ミクの変わり果てた姿に僕は唖然としていた。 全身を覆う黒々とした金属の塊。両手に持たされた、奇妙な形をした刀剣のような物体。ただ、その後頭部からは、ミクの黒髪が名残のように揺らいでいた。
頭から足の先まで、様々な装置類でがんじがらめにされたミクが...Eye with you第二十六話「無命の少女」
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瞼が開かれると同時に、赤い水晶体は光を反射させ、生命の輝きと鼓動を取り戻し、暗い照明の下、闇に囲まれた世界で、新しい肉体を得た命が目覚めようとしていた。
瑞々しく潤い、真紅の瞳を持つ眼が、外の世界を確認しようと暫く右往左往した後、その視線がこちらに定まり、その綺麗な唇が微かに、何かを伝えようと動い...Eye with you第二十五話「新生の未来」
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彼は独りでに歩く。誰に言われるまでもなく、自分の行きたいところに、自分の好きな時に行き、やりたいことをする。そして飽きるべくして飽き、次の興味を探して、また独りでに歩き出す。
ランス・ウォーヘッド。彼はそんな自由奔放な生き方を主義としている。本来ならば、そんな反社会的な性格では、若くしてこんな巨...Eye with you第二十四話「低迷」
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「・・・・・・ひろき。」
「なんだい?」
「どれくらい、どれくらいねむるんだ?」
「一週間ぐらいかな・・・・・・でも大丈夫。眠っている間は分からないから、君に取っては一瞬だよ。」
「そうか・・・・・・。」
「次に目覚めたときには、君はきっと自由な手足を手に入れてる。だから、安心して。」
...Eye with you第二十三話「盲目的」
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視界を取り戻せたのは、あれから半日以上も時間を開けたあとだった。いや、視界だけでなく、聴覚、感覚、それどころか意識まで混濁させられた挙句、全てがはっきりと自分に帰ってきたとき、僕はただ一人白い檻の中に佇んでいた。目を開けた瞬間眼の前に現れた何も無いという空虚と、同時に感じた悪寒は今でも慣れることは...
Eye with you第二十二話「その瞳に宿すもの」
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この虚無感はなんだろうか。
空白の意識の中で、誰かが疑問を投げかけた。恐らく、僕ではないだろう。
頭の中から全て吸い出され、今や意識も感覚薄れていく人間に、疑問を持つことすら出来るはずがない。
あの日に、僕は一度死んだ。希望と至福に充ち満ちていた日々を過ごしていた網走博貴は死んだのだ。夢も希...Eye with you第二十一話「手と足と」
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蛍光灯の破片を掻き集めながら、再び調整に使われた研究室を見回した。砕け散ったモニターやガラス、壊れたコンピューター、千切れた黒いケーブル。あらかたの片付けを終えてもなお、この部屋には、数人が取っ組み合いの争いをしたような痕跡が残っていた。ましてや、凶気に操られたアンドロイドと科学者が死闘を繰り広げ...
Eye with you第二十話「露と消えゆ」
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そこには冷たい顔をした、見知らぬ少女が立っていた。その顔立ちこそ僕が忘れるはずもない、今までに多くもの思い出を作ってきた少女、キクのものであったが、その凍りついた、完全に生気を失った冷酷な表情と視線は、僕の知るキクのものではなかった。
「キク・・・・・・? ねぇどうしたの。返事してよ。」
彼女...Eye with you第十九話「呑まされた凶夢」
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散歩から帰ってみると、すでに研究室には数人の科学者(おそらく本社の者)が集まり、今夜の調整のための機材を用意していた。
研究室に立ち入るなり、彼らは挨拶もなしに「二人を調整用ベッドに寝かせてくれ」と命令してきた。
本社の人間は決まって冷たく命令口調で、僕と鈴木君はやはり反感を覚えたが、ここで逆...Eye with you第十八話「冷たい寝顔」
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一歩足を踏み入れただけでも、この部屋が私にとって以下に未知の空間であり、どこか落ち着きがなくそわそわとしてしまうものだった。
暖かい日差し、涼しい潮風、薄い肌色の壁、毛布のようなカーペット、本棚とそこに置かれた絵本と、色鉛筆とスケッチブック。
今まで触れたこともないようなものに実際に触れても、...Eye with you第十七話「つばさ」
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あれから数週間。どうにか本社にその存在を認めてもらえたタイトとキクの二人。だが、僕と鈴木君の仕事はそれで終わったわけではない。
これからたった二人の、しかもロクに子供と接したことすら無い男二人でタイトとキクの面倒を見ていなければならなかった。しかも、これがまた意外と過酷な作業で・・・・・・。
...Eye with you第十六話「絵空事」
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「ええ・・・・・・驚くほどの学習が早く、既に基本的な動作は完璧にこなしております。ご覧になれば、きっと驚かれるはずです。」
暖かい間接照明が照らし甘い香料が香る廊下を、僕は如何にもお偉方と言った風貌の背広の男達と歩きながら、些細な質問に対して大げさに、そして誇らしく語っていた。
二人が目覚めて...Eye with you第十五話「赤と黒の子」
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黄金色の朝日に、何もかもが染まっていた。
そう。ちょうど数ヶ月前の今、同じように黄金色の朝日の照らされる中、僕達は「目覚め」を見届けた。まさにデジャヴだ。
そしてまた、僕達は黄金色の朝日に照らされ、またもや、その「目覚め」とやらを見届けようとしている。
通称VOCALOID-00。機械のアダ...Eye with you第十四話「第二の目覚め」