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仕事の休憩中に鷹臣さんから連絡が入った。彩花が倒れて救急車で病院に運び込まれた、と。
「弭さん、どうしたんですか?そんなに息切らして。」
「元気そうじゃねぇかよ…。」
ずるずるとソファに座り込んだ。彩花が伏せた顔をひょこりと覗き込む。
「…心配してくれたんですね。」
「そりゃ焦るって、いきなり倒れた...いちごいちえとひめしあい-88.○○以上××未満-
安酉鵺
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廊下に出てからも暫く緋織は震えながら涙を零していた。ややあって七海が重苦しく口を開く。
「変な電話があったんだ…しふぉんが大怪我して、此処に搬送されたって…それで…。」
「大怪我?」
その言葉には明らかに違和感があった。見た所桜華に外傷も無くスタッフも慌てている様子は無かった。それに電話でと言うのも...いちごいちえとひめしあい-87.憎悪-
安酉鵺
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静かな病室に電話の振動音が響いた。眠っている緋織が起きてしまわないかと慌てて手に取る。
「鶴村睦希…?」
着信名に一瞬躊躇した。他人の電話に勝手に出るのも非常識だが、事情を知っている人間なら、と通話ボタンを押しテラスに出た。
「もしもし?」
電話の向こうでざわざわした音だけが聞こえる。救急車のサイレ...いちごいちえとひめしあい-86.甘い罪悪-
安酉鵺
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ちくちくと刺さる視線を避ける様に調理室の前を通り掛ると、チョコレートの甘い匂いが漂って来た。
「良い匂~い、ここだぁ!」
「密佳、犬じゃないんだから…あれ?しふぉんちゃん。」
「睦希先輩、味見に来たんですか?丁度もう直ぐ焼き上がりです。」
エプロンを着たしふぉんちゃんがパタパタと片付けをしていた。テ...いちごいちえとひめしあい-85.悪夢へと-
安酉鵺
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鷹臣さんを呼んだ時間が近くなり私は来客用の駐車場で待っていた。背中にはカメラを構えた密佳が張り付いている。
「ねーねー、睦希にゃん、その『旋堂さん』って、どんな人?可愛い系?カッコイイ系?ラテン系?」
「少なくともラテン系じゃないよ…って言うか…やっぱり向こう行ってて欲しいんだけど…駄目?」
「好奇...いちごいちえとひめしあい-84.古本屋の常連客-
安酉鵺
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19年生きて来たけどまさかロッカーの中から幼馴染が日向ちゃんに手を出しそうな瞬間を見るなんて…。
「行ったか?」
耳元で囁かれ全身にぞわっと鳥肌が立った。そうだ、幾ら私が幼児体系で色気が無いとは言えロッカーの中に成人男性と2人で居たら身の危険が!
「ふえっくしょい!はくしゅ!げっほげほげほ!あー!痒...いちごいちえとひめしあい-83.三度目のアッパーは…-
安酉鵺
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授業も無いのに朝っぱらからメールで呼び出されていた。
「『話があるので高等部の医務室へ』って…何なの?あの先生は…。」
話ってそもそも何だろう?思い当たる事は幾つかあるけど断定出来ないし、私の預かり知らぬ事かも知れないし、面倒だけど足を運ぶ事にした。何の気無しに医務室のドアを開けるとガンッと言う音と...いちごいちえとひめしあい-82.実はそこに居ました-
安酉鵺
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状況が飲み込めず呆けていると、咳払いが聞こえて我に返った。
「大丈夫か?」
「う…別にどうもしてないし…。」
気まずくて思わず口篭っていると、グシャグシャに握り締めていたテーブルクロスを優しく取り上げられた。テキパキと畳まれたクロスを見て今度はどーんと気持ちが沈んで来た。ベッドの上で膝を抱えて深い溜...いちごいちえとひめしあい-81.心底舌打ち-
安酉鵺
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〈A〉
歩むしかないレール上で
疑問すら持たず息だけしていた
誰かが怒り誰かが泣くのを
どこか冷めた魂で見ていた
〈B〉
線を引き溝を掘り
此処は縄張り
幾重にも厳重に
築いては気付かなくて...歌詞【~Idocrase~】
安酉鵺
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彩花と一緒に自販機でジュースを買っていると、何やらキャンキャンと甲高い声が聞こえた。見ると鶴村先輩が友達に纏わり付かれている。溜息を吐きながらこっちを見た先輩と目が合うと、何故か先輩は私にバットを手渡した。
「何でしょうか?このバット。」
「これで天城会長殴って来てくれない?」
「解りました。」
「...いちごいちえとひめしあい-80.蚊帳の外-
安酉鵺
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何だか色々あった旅行が終わってやっと学校に居る気分だった。考える事が多過ぎて逆にあまり考えたくない、正直そんな感じだった。気晴らしに戦利品である写真を眺めていると、目隠しと同時に明るい声が聞こえた。
「にゃっふぉーい、睦希にゃん。」
「んー密佳、お早う。」
振り返るとクラスメイトであり同じ美術部の密...いちごいちえとひめしあい-79.バット持って歩こう-
安酉鵺
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少しの間気まずそうにしていたけど、先生はぽつりぽつりと話し始めた。自分が事故に遭って響さんに助けられた事、恩人であるカウンセラーに会った事、そしてその人が緋織ちゃんのお母さんだった事、2年前言われた事、ずっと信じていた事、それが嘘だったと言う事…。
「俺は騙されてたって言うより、都合の良い様に思い込...いちごいちえとひめしあい-78.青い闇の中に-
安酉鵺
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押し切られる形で家に入れてしまったけど、一人暮らしの部屋に入れちゃうのってまずいよね?しかも冗談なのか本気なのか知らないけど泊めてって…そんなの絶対ダメ!私に色気が無いのは解ってるけど幾ら何でも危機感を覚えるわ!
「やっぱり帰って下さい!」
「ころころ意見を変えるなよ。」
「でも、やっぱり危ないと言...いちごいちえとひめしあい-77.沈黙と涙隠し-
安酉鵺
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家に戻ってから少ししてカシスさんからメールが着ていた。緋織ちゃんが倒れて入院した、と言う物だったけどそれを見た時私は驚かなかった。凄く無理してるのは私から見ても明らかだったから、正直いつかこうなるんじゃないかと思ってた。
「うん、解った。白いタンスの中から着替え持って行けば良いのね?うん…じゃあ、ゆ...いちごいちえとひめしあい-76.不運と湯豆腐-
安酉鵺
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私は一体どの位眠ってたんだろう?目を開けると辺りは青い闇に包まれていた。知らない天井に、知らない壁、少し薬品の臭いがした。ぼんやりする頭で少しずつ思い出す。私熱で倒れちゃったのかな?それで誰か病院に連れて来てくれたんだ…。ゆっくり身体を起こすと右手が温かいのに気付いた。
「…緋織…?」
心配そうな声...いちごいちえとひめしあい-75.降り積もる涙-
安酉鵺
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鍵を開けて貰い、火の様に熱い緋織を抱えて家に入った。矢鱈片付いた家はどこか生活感が無い。
「緋織ちゃんのお部屋、確か2階だったわよね?」
「暑い…暑い…痛いよぉ…。」
意識はあるが目が虚ろで息も少し弱くなっていた。来留宮と真壁も状態の悪さに青ざめている。一先ずリビングのソファに寝かせ相談した結果救急...いちごいちえとひめしあい-74.隠された言葉-
安酉鵺
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少し眠ってしまったらしく、軽く頬を叩かれて目が覚めた。ゆっくり目を開けると旋堂さんの姿があった。金色の髪に一瞬緋織かと思った訳だが。
「酒抜けたか?」
「多分…すいません。」
辺りを見回すと解散したのか人影は無く、旋堂さん以外は片付けをしている雉鳴弭だけが動いていた。起き上がった俺に気付くとトコトコ...いちごいちえとひめしあい-73.残念な美人-
安酉鵺
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そう遠くない自分の家に戻ってから車に乗ろうとした時、私用携帯が鳴った。緋織からだった。
「もしもし?熱で倒れたって聞いたけど…。」
「もしもーし!あの!来留宮です!」
劈く様な声に何故お前が出る?の疑問と共に若干の怒りを覚えたが、倒れた本人が電話に出られないのだと合点が行った。話をまとめると一之瀬が...いちごいちえとひめしあい-72.泣きじゃくるまま-
安酉鵺
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玄関のセキュリティを見た時に引き返せば良かったと今更思う。コンビニの袋と普段着が激しく似合わない、と言うか格差を感じる瞬間。躊躇う私に気付いた雉鳴さんが手招きをした。
「彩花ちゃん、どうしたの?ほら、おいで。」
「いや、その、凄いマンションだなぁと。」
「まぁ、貰い物だから、気にしないで。」
マンシ...いちごいちえとひめしあい-71.爆弾を平気で投げる-
安酉鵺
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俺は実に納得が行かないで居た。そもそもファミレスとは食事をする場所、即ちある程度落ち着ける場所でなければならない。しかし現状は何かが間違っていた。
「うっわ、何あの美形集団、撮影か何か?」
「あ、あの子知ってる!ほら、このサイトの女の子だよ、前写真ダウンロードしたもん。」
「金髪の巨乳ちゃん居なくね...いちごいちえとひめしあい-70.公衆の面前で-
安酉鵺
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部屋中に綺麗に並んだぬいぐるみを見て不覚にも少し和んでしまった。あぁ…限定版うさうさグッズがあんなに一杯…キャラメルハニーうさうさなんて見るのも初めて…。ふかふかそうだなぁ…。私はうずうずする手を抑えつつチラリと一之瀬…じゃない、間さんを見た。来留宮先輩に事情を説明しつつ何かフォローしてるっぽい?い...
いちごいちえとひめしあい-69.うさぎ天国-
安酉鵺
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よく、漫画や映画なんかにあるベタなシチュエーションに、家に行ったら豪邸で門から玄関まで5分掛かります。なーんてのがあったりするけど…。
「普通!」
「何を期待した?何を?」
「豪邸とか?」
「あー、そう言うのみたいならまた今度ね…取り敢えず入っ…ああ、引くなよ?」
家に入る前に敷居の高い前振りされた...いちごいちえとひめしあい-68.落ち着かない部屋-
安酉鵺
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どう言う訳か嫌な予感程よく当たる。盗み聞きは良くないけど、緋織ちゃんを誰かと2人きりにするのはどうも気が引ける。あの子は何と言うか…危なっかしい気がするのよね…。そして隠れて見ていたら案の定泣かされちゃってるし、強いんだか弱いんだか解んない子だわ。
「はぁ…何してるんですか、緋織ちゃん泣いちゃってる...いちごいちえとひめしあい-67.瞳の奥で-
安酉鵺
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ドアが閉まる音に飛び上がりそうになった。どうして良いか解らず本能的に来留宮先輩を見遣った。
「じゃあ、私これで。」
「つれないねぇ。」
「聞かせたくない話みたいですし。」
「ま、待って下さい先輩!こんな所に置いてかないで下さい!私が頭から食べられちゃったらどうするんです?!化けて出ますよ?!」
「俺...いちごいちえとひめしあい-66.悪趣味ですから-
安酉鵺
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解散場所に着いてから、皆は複雑な表情でバスを降りた。それぞれの顔に不安や焦りが見て取れる。
「警護は警察とも連動するから、そんなに怖がらなくて良い。」
「余計物々しいです。」
忙しない雰囲気の中、真壁さんは荷物を持ち上げると、軽く皆に会釈をしてスタスタと行ってしまった。
「ひお、一応会社で説明あるみ...いちごいちえとひめしあい-65.反転-
安酉鵺
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バスの中で皆がそれぞれの鍵を見詰めていた。胡散臭そうな目で、或いは不思議そうな目で。
「この鍵多分GPSみたいな物が組み込まれてる、それから支給された携帯との相互認証も。」
「嘘?!そんな高度な技術で出来てんの?!」
「鍵を落としたり盗まれたりしたら大変だからね、支給された携帯と一定距離離れた場合は...いちごいちえとひめしあい-64.玉葱とトマト-
安酉鵺
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旅行先から戻るバスの中、朝早かったせいか寝息を立てている物が殆どだ。昨日ギリギリに完成させたイベントの企画をサイトに更新しようとした時だった。
「え…?」
『認証パスワードが違います』と言う赤い文字が表示された。打ち間違えた訳ではおそらく無い。しかもこんなエラーにこんな文字は入れてない。試しにもう一...いちごいちえとひめしあい-63.マクガフィン-
安酉鵺
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明日の朝には出発と言う事でお土産を含めた荷物をまとめていると、ひおが戻って来た。
「お帰り、大丈夫?ひお。」
「うん、寝不足が原因だったみたい。」
ひおは笑っていたけど、やっぱりちょっと元気無さそうだった。心配になってぎゅーっとひおを抱っこしてみる。
「頼りないかも知れないけど、出来る事あったらちゃ...いちごいちえとひめしあい-62.最弱ナイトの選択-
安酉鵺
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救護テントに付いたのは連絡を受けてから15分程経った頃だった。ベッドの上で座っている緋織とその脇に瀬乃原彩矢の姿が見える。こちらの姿を認めて輝詞が口を開いた。
「館林さん、早かったですね。」
「緋織の様子は?」
「貧血みたいです、今は落ち着いていますが彩…瀬乃原さんの話だと急に具合が悪くなったみたい...いちごいちえとひめしあい-61.複数の光源氏-
安酉鵺
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日が落ちて辺りが暗くなり始める頃、私達は人ごみの中を歩いていた。星舞祭りの名前通り、あちこちに星型のランプが灯っていて綺麗だった。と、前から急に人の波が押し寄せて来た。
「わっ?!ちょっ…?!すみません、通して…!」
声も空しく私は輝詞さんとあっさりはぐれてしまった。何とか人ごみを抜け出したけど、何...いちごいちえとひめしあい-60.無数の目-
安酉鵺