雨鳴の投稿作品一覧
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小説「天使は歌わない」プロローグ漫画化
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“ラドゥエリエルの試作品”の話を持ち出したら即決オーケー。 普通ならありえないことだが、真偽の定かを確かめずとも、嘘ならば紹介した清水谷の罪になり後々いい材料になるだろうし、真実ならば国に睨まれる心配もないし、彼女にマイナスはない。 そういうことだろう。
「ここにそんなボーカロイドっぽいもの...天使は歌わない 29
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スイートルームというだけあって、美木の部屋は豪華だった。 彼女の荷物があちこちに積んであってもまるで乱雑さを感じさせない十分な広さと、一目で値段を考えさせる高価そうな代物でありながら同時に落ち着きや居心地のよさなども与えるナチュラルな美しい置物。シンプルな壁紙が、家具の丁寧で緻密な装飾を引き立て...天使は歌わない 28
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「僕、ついて行こうか」
「しつこいって。一人でいいって言ってるでしょ?」
清水谷と取引して、初音ミクのマスターである慈善家、美木に会うアポイントを取り付けさせた。コンサート開催日に近づけば近づくほど、私がもぐりこめる望みは薄くなる。なんとか無理矢理捻じ込んだ一番早く彼女にあえる日和、それが今...天使は歌わない 27
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初音ミクの所有者は何処かの石油王と国際結婚した日本人で、名前はなんとかかんとか美木。苗字は偽造したんじゃねえかと思うほどややこしく、聞いてもすぐに忘れてしまう。 とにかく、その美木は、たいへん慈善事業に熱心と有名だ。 あちこちの団体に莫大な金額を寄付しては新聞に取り上げられ、人として当然のことを...天使は歌わない 26
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レンに手伝ってもらった作詞の仕事は思いのほか捗り、更に思いのほかいい出来栄えになって、依頼者にはたいそう喜ばれた。これで少年達のユニットはヒット間違いなし!なんて気の早い台詞まで出ていたから、きっと相当に気に入ったのだろう。 こっちは締め切りを守れたことに安堵するので精一杯、ヒットだとか考える余...天使は歌わない 25
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歌の練習(校歌以外)
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「我らーがさァとのー、うつくゥしきみどーりーぃぃぃ、うたーえ永久ぁの豊穣をぉお」
「え、何、デジャブなんだけど」
「ああ めーちゃん。いや何、リンとレンが二人で歌えるような歌教えろって言うから、合唱の基本である校歌を教えてあげようとだね」
「はーい いい子だからおねーさんと一緒に今時の歌をお勉強...天使は歌わない 24
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天気がいいとはお世辞にも言えない、曇り空の昼間。天の恵みを待ち侘びるようにざわめく木の葉。人々が生活する音色は、雨を恐れ、外ではなく家の中で響いている。赤ん坊の泣き声とそれをあやす母親の甘い子守唄。 子供が走り回る軽やかなステップ。 長い長い世間話のささやき。 幾多の世界を横目に歩く足取り、浮遊...天使は歌わない 23
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リンとレンの問題はやや複雑だったが何とか解決した。 殺気だった清水谷も、流石にリンが持ち出した「機密」が後ろ盾だと思い通りにはいかず、歯噛みしながらリンとレンの所有権を私に譲った。 覚えていろよとの捨て台詞でも言いそうなご乱心ぶりだったが、リンが顔を出し、自分の思いをはっきりと清水谷に告げると、...天使は歌わない 22
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しがない作詞家の機転で引き離されたツイン・ボーカロイドは見事ロリコンマスターを退け再び共に歌えるようになりましたとさ。 めでたし、めでたし。
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…で、終わるはずだったのに、何故かそのツイン・ボーカロイドは二人揃って私の自宅の前にいて満面の笑顔で手をふっているのだった。 丁度...天使は歌わない 21
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第一発見者の私とカイト、それから修理済みのレンは、改めて警察に呼ばれ、詳しい事情を聞かれた。 一晩たっぷり考える時間はあったので、カイトのことや今まで関わった事件のことの詳細は上手くぼかして話した。 「清水谷を尋ねたのは、一度仕事をした人間として最近の物騒な事件を聞き心配になって。それから可愛く...天使は歌わない 20
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「馬ッ鹿じゃねーの」
開口一番はそれだった。 自宅に帰る前に、レンを連れてシーマスの所へ駆け込んで、今までのことをざっくりと説明した後での一言だ。 白々とした眼差しにむっとしながらも、彼が何も嫌味だけで言っているわけではないとわかっているので黙ってレンの背中を押す。まだぶつぶつ何かを言いなが...天使は歌わない 19
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可愛らしい家の白い壁に、パトカーの赤いランプの光がちかちかと反射する。 カイトの通報によってかけつけた救急車は血だまりに浮かぶ彼女を見るなり首を横に振り、代わりに警察を呼んだのだ。 かけつけた何台ものパトカーはあっという間に彼女の家を黄色いテープで囲み、多くの警察が行き交う場所に変えてしまった。...天使は歌わない 18
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壊れても直せるから壊れてもいいだなんて思える次元はとうに過ぎた。 一つ壊れるたび胸を痛めて、二つ壊れるたび悲しみが襲う。 人ではないとわかっている、理解している、納得している。その上で彼らを「壊れても直せるもの」とは思えなくなってしまったのだ。 この複雑な心中は誰にも理解してもらえないだろう。
...天使は歌わない 17
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「…あの。清水谷っていう人は…常磐とどういう関係?」
憤慨をそのままに、荒々しい足取りで高級住宅街を闊歩していたが、カイトの言葉にぴたりと足を止め、振り返り鋭い眼を向ける。もし殺気だけで人が殺せるならば清水谷は今頃苦悶の表情で息絶えていることだろう。 メデューサに見据えられたカイトは石になっ...天使は歌わない 16
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商品コード[30121] 、VOCALOID NAME [鏡音 リン/レン]。 ボーカロイドが世界で脚光を浴びた火種とも言える「VOCALOIDシリーズ」を製作した会社が造った、二番目のボーカロイドたちである。 ツイン・ボーカロイド…つまり「双子」という設定のため、似たような外見に同じ人間の声を...天使は歌わない 15
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『―――ブランド業界のカリスマにして近々政界に進出をほのめかしていた社長、そして今回の与党政治家である人物の殺害、この二つの事件には関連があるのでしょうか。インターネットでは被害者二名が殺害された際の映像と思しきショッキングな動画が発見され、話題を呼んでいます。警察は犯人が自ら撮影し公開したもの...天使は歌わない 14
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「我らーがさァとのー、うつくゥしきみどーりーぃぃぃ、うたーえ永久ぁの豊穣をぉお」
「え。何その歌」
「小学校の時の校歌」
「何だって選曲がよりにもよって校歌なわけ?」
「だから言ったじゃない! だから言ったじゃない! 歌いこんだ覚えのある歌でないとハズれるんだよくそぅ! 恥ずかしいな! だったらもう...天使は歌わない 13
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顔面を押さえてもがき苦しむシーマスを放置してさっさと家へ帰る。連れ立つ二人はどちらも私にはつりあわないほど美形で魅力的ときたものだからカイトに続きまたもご近所の好奇心を刺激することだろう。まあいい、また 「幼馴染の従兄弟の友達の兄貴のホームステイ先の息子が交換留学生としてやってきていたのだけれど...天使は歌わない 12
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シーマスの家でメイコが「見た」ものをカイトの時と同じ方法で確認した後、全員揃ってリビングに集まり、今まで起こった事柄を大まかにまとめることにした。 ―――まず、メイコの主人は某国会議員だった。不正にボーカロイドを所持し、更にボーカロイドとしての「歌う」以外の機能を…それも酷く人間性を害った機能を...天使は歌わない 11
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※注意※ ぼかしていますが多少過激な表現がありますので苦手な方はこの話を飛ばしてお読みください。飛ばしても差し支えは無いように配慮して次の話を書く予定です。
国のリストで調べたところやはりMEIKOという名のボーカロイドは登録されていなかった。見た目もカイトと同じく人間と並べて見...天使は歌わない 10
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…血塗れの女性を公園に放置するわけにもいかないしカイトが喜々としてめーちゃんめーちゃん言ってるので仕方が無いから謎めいた女性をひとまず私の自宅に招く事にした。 なんかもう厄介ごとの匂いしかしないのだけれども、嫌な予感がひしひしとしているのだけれども、それでも第一の厄介ごとは私の邪心が招いたものなのだ...
天使は歌わない 09
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―――カイトがやってきてから一週間目の日。
珍しくカイトの散歩に私も付き合い、珍しくいつもの安いサンダルじゃなくてちょっとお洒落な余所行き用の靴なんか履いて、誰かと一緒にみる夕焼けはまた違う彩りに見えるのねだなんて珍しく乙女なことを思った、そんな日。
珍しいことなんてするべきじゃあなかった、...天使は歌わない 08
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開店と同時にどっとスーパーに客が流れ込む。全て安売り目当ての客で、目をギラつかせて狙いの品があるコーナーへ一直線にカートを走らせる。私は右手にカート、左手にぼんやりしてるカイトの腕を掴んで安売りの品を最も効率よく手に入れられるルートを駆け、まずは大人気の砂糖と卵、更についでに安かった牛肉もカゴに...天使は歌わない 07
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青い髪と目をした、見目麗しい、歌うアンドロイド。 商品コード27720、機体名KAITO。 彼がやってきてからはやくも三日がたっていたが、近所の人にアンドロイドだと疑われることはなく、寧ろあちこち散歩して回るカイトの姿を見て「いい男捕まえてきたのね!」なんて羨ましがられることもしばしば。
そうい...天使は歌わない 06
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自宅に辿り着いたころにはもう周囲は薄暗くて室内が見えにくく、手探りで電気のスイッチを入れる。ぱちんと軽い音と共に照らし出された室内は、なんというか、独り暮らしらしい雑然さに塗れていた。 いくら相手がボーカロイドとは言えソレを見られるのはきまりが悪く、慌てて床に散乱する服やら紙やらを片付ける。 カイト...
天使は歌わない 05
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とりあえずシーマスから衣服を強奪しカイトに着させた。ハンチング帽を目深に被らせ、ついでに彼の趣味でもある眼鏡コレクションの中から適当に選んだ伊達眼鏡をつけさせる。 それだけで印象が大分違ってくる。この青い髪の男がアンドロイドだなんて最早誰も思いもしないはずだ。 シーマスは変装したカイトの姿を見て、「...
天使は歌わない 04
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「KAITO、です。 今宵はどのような曲を御所望でしょうか?」
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シーマスのパソコンとカイトの間につながれた様々な回線。物珍しそうに周囲をきょろきょろ見回す姿は、見た目の「青年」らしさとは程遠く、幼い。 私の不躾な視線に気づいたカイトはにこりと懐っこい笑顔を浮かべた。当初業者に連絡して謝礼金を...天使は歌わない 03
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名前はKAITO―――か。 シーマスによって着々と修理されてゆくアンドロイド…カイトの様子を、しばらくは面白がってみていたのだが、次第に飽きて勝手に部屋のパソコンでインターネットを楽しむことにした。 流石機械修理屋、部屋は何に使うともわからない部品や壊れた機械が雑然と積まれ、あちこちに修理のための道...
天使は歌わない 02