「扉……開けるよ」
ゆかりさんの一声で鉄製の扉は開かれた。
扉は地面に接している。即ち、この扉は地下室へ向かう階段への入口ということだろう。
扉を開けると、中は階段となっていた。とても暗く、明かりがなければ突入も出来ない。
「……眠い」
「暗いからってそれはどうなんだよ!?」
「まあ、とりあえず向かうしかないね」
ゆかりさんはそう言って、一歩足を踏み出した。
≪ゆかりさんの非日常な売店日誌 5≫
階段を降りていくと、そこには扉があった。
扉を開けると、そこには部屋が広がっていた。部屋には、いくつもの本棚があり、その本棚には全て本がぎっしりと詰まっていた。
「……本?」
ゆかりさんは本を取り出し、パラパラとめくる。
「私は生涯彼女を愛することはないだろう。私は彼女を愛することはない。楽園という扉を開くこともままならなかったのだ」
「……それ、なんの本?」
「ここにあった本だよ」
「それって、エルタージュ教授の本じゃないか?」
意外にも、その本の詳細を知っていたのはキヨテルだった。
キヨテルはゆかりさんから本を取り、題名を見る。
「ああ……そうだ。これはヴァン・エルタージュ教授が執筆した論文をまとめたものだよ。タイトルは『楽園論』ってものだ」
「楽園論?」
ゆかりさんは身を乗り出して、訊ねる。
「楽園論とは、ヴァン・エルタージュ教授が幼くして亡くなった娘のために宛てた研究のことだよ。彼女のためならなんでもやったそうだ」
「例えば?」
「例えば、錬金術を用いて人体を製造する。魂は黄泉から呼び込んでそこへ突っ込むというシステムだ」
「ふむ。そして、それは?」
ゆかりさんの言葉にキヨテルは首を横に振る。
「いいや、それは失敗に終わった。肉体が安定しなかったんだよ。ぐでぐでの液体に成り果ててしまったのさ」
「液体……」
「臭うとか言うらしい。その臭いは地獄だとか。それを『娘』だと思ってしまったんだよ、それでも、あの教授は。あれが娘だと思い込めてしまうほどに、彼の精神は疲弊していた」
キヨテルの言葉は、まるでそれを経験したかのような重みが感じられた。しかし、そのことは有り得ないだろう。なぜなら、その『楽園論』と呼ばれる本は少なくとも百年近く前に製本されたもの。そうだとするなら、今キヨテルは百二十歳以上であるということだ。それは現実的にありえない。
「……そして、彼は更にたくさんの論文を発表した。全ては娘のためだった。そして遂に――彼はとんでもないことをしてしまった」
ゆかりさんは、訊ねた。
「……それは?」
「それは、黄泉を人工的に作り上げたことだよ」
つづく。
ゆかりさんの非日常な売店日誌 5
【生徒会長行方不明事件編・3】
キヨテルさんは事情通(建前上)。
[このあとの予定]
04/01 - 第六話(生徒会長行方不明事件編・4)更新
04/02 - 第七話(生徒会長行方不明事件編・5)更新
4月1日まで更新をお休み致します。
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