「おや、いらっしゃい」

入口のドアが開いて、「カフェ・つんでれ」に入ってきたのは、霧雨さんだった。

「どーも」
傘を閉じて傘立てに入れながら、彼女はそうつぶやいた。

「まだ、雨が降っていますか?」
マスターの吉さんが尋ねる。

「うん。まだ。大分小降りになってきたけど」
そういって彼女は、カウンターに座った。

「はあ、疲れちゃったよ」
「お仕事ですか?」
「うん。コヨミくんのとこで、新しい企画の打ち合わせ。こんどあの人のやるイベントに、イラストで参加するんで」
霧雨さんはそう言って、カウンターに載せた手を組む。

「おや、面白そうですね」
マスターの言葉に、彼女はうなずく。
「うん。コヨミくんもタフよね。いろんな仕事を掛けもちで、同時に進めるんだからサ」

「たしか、今、テト・ドールの新製品もやってましたよね」
「そうそう。それも張り切ってるよ、アイツ。しかも、テトさんの仕事に“ダメ出し”が多いんだって。テトさん、アイツがいない所で、こぼしてたもの」

そういって霧雨さんは笑い、マスターが出したコークハイを一口飲んだ。

「でも、この景気で、いろいろお仕事があるのは、良い事ですよ」
吉さんはそう言った。


●これ以上、怖がらせちゃマズイ!

「そういえばここでこの間、その、テト・ドールがちょっとキモい感じだったでしょ」
彼女の言葉に、マスターは苦笑いする。
「ああ、目玉が動いたことですね。変なこと言っちゃって、すいませんでしたね」

「ううん、いいって。それがね、また、あれから動いたんだよ」
「え?」
彼女の言葉をカウンターの中で聞いていた、マスターとモモちゃんは、同時に声を上げた。

「うん。コヨミくんのとこで。テトさんが持ってた人形の目がまた、動いたの。見たのは私だけだったんだけど」
「霧雨さんだけ?」
「そう。でも、テトさんには言わなかったけど。これ以上、彼女を怖がらせちゃ、マズいでしょう?」

「そうね。彼女、あれで結構、怖がり屋さんですものね」
モモちゃんが笑った。

「うん。でもさァ、何なんだろうね、あの人形」
そういって、霧雨さんはグラスを両手に持って、ため息をつく。

「不思議な人形は、“はっちゅーね”だけで十分よ。あ、そうだ、そう言えば…」


●“サニワ”みたいな人?

霧雨さんは、グラスから顔を上げて尋ねた。
「マスター。この前、言ってたよね。ニコビレの、おかしな人の事」
「ああ、兎論 紙魚子さんのこと?」
「そうそう。その人、どんな人なの?」

「そう、変わった人ですよ。人によっちゃ、魔法を使う、とかいう噂を言ったりね」
「へえ、魔法使いなの?」

霧雨さんの切り返しに、マスターはニガ笑いした。
「いや、魔法使い、とは僕は思いませんよ。でもね、変わった雰囲気があるんだ」
「どんな風に?」

「ボクがこの店をまかされる前に、勤めていたジー出版の仕事で、何度か会ったことがあるんですよ。その時の感じでは…」
マスターは思い出すように言った。
「たとえて言うなら、“サニワ”の力を持ってるみたいなんだ」

「サニワ?」
「え?サニワって」
霧雨さんとモモちゃんは、異口同音に聞き返す。

「うん、わかりやすく言うと、神社の“神主さん”みたいなものかな」

「ちょっと、それ、余計にわかりにくいわよ、お兄ちゃん」
モモちゃんは、苦笑いして言った。

でも霧雨さんは、意外と「わかった」という様な顔をした。
「ふうん、なるほど。その人、魔法使いとか、シャーマン、じゃないんだね」

モモちゃんは、ますます分からない、という顔をした。

「そうそう。神社で言えば、神主さんと、巫女さん、の違いですよ」
マスターはうなずいて言った。

「つまり、神主さんは、自分で不思議は起こせないけれど、不思議を導いたり、交通整理したりはできる人、ということですネ」「(ーヘー;)

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
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玩具屋カイくんの販売日誌(215) 「つんでれ」で、オカルト談義!

ニコビレの新入りさんの素性?に、みんなは迫れるでしょうか。

閲覧数:83

投稿日:2013/11/10 15:08:42

文字数:1,614文字

カテゴリ:小説

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  • enarin

    enarin

    ご意見・ご感想

    こんにちは! 今日も続きを拝読させていただいております!

    > 「でも、この景気で、いろいろお仕事があるのは、良い事ですよ」

    その通りですよね。私は家事で毎日忙しく、特に師走に入ってから更に忙しくなっているので、ある意味、この忙しさに感謝してます。

    仕事があるうちが華

    って言いますしね。

    さて、目が動く、奇妙な現象から、サニワのお話ということで、確かに、西洋には、日本の神道のような考え方はないようですね。

    魔法使い、魔女、のようなカテゴリ、神父のカテゴリ、シャーマンのようなカテゴリ、エクソシストのようなカテゴリ、はあるんですが、貴方の言われているように、

    神道=神様の交通整理

    ってカテゴリはないですからね。基本的に日本以外では、”八百万の神”、に該当するのは、自然の驚異、だけですからね。それでも、八百万と同義ではないですから。

    霧雨さんの元ネタキャラのように、魔術を使うわけでも無し、神様の力を宿しているわけでもない。実に、海外の人に説明できない、そういう人物だと思います。というか、理解して貰えないかも。

    ではでは~♪

    2013/12/04 14:25:04

    • tamaonion

      tamaonion

      enarinさん、感想を有りがとうございます!

      >基本的に日本以外では、”八百万の神”、に該当するのは、自然の驚異、だけですからね。それでも、八百万と同義ではないですから。

      そうですよね。よく言われますが、西欧文明では自然は征服すべきもので、崇めるものではないようです。

      >霧雨さんの元ネタキャラのように、魔術を使うわけでも無し、神様の力を宿しているわけでもない。実に、海外の人に説明できない、そういう人物だと思います。というか、理解して貰えないかも。

      そうそう、神道のことを説明するのは、西欧文化のモノサシではけっこう難しいようです。
      まあ、アニミズムという要素も神道には残っていて、そういうものを漠然と信じながら、近代国家でありうる日本、って、かなり不思議ですよね。

      でも、同じ呪術的な宗教でも、ケルトのドルイド教とかは、けっこう血なまぐさい要素があるし。(人間を生贄にする、とか)

      自然の事物や現象に、神が宿るとする考えとは、本質的に違うのかもしれません。
      でもラブクラフトの作品などは、意外と私たちも親しんでいるし、バリエーションはいろいろあるのかも知れませんね。

      また、ぜひ感想を聞かせてください!

      それでは、また。

      2013/12/07 19:18:27

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