カイコの街案内も終わり、部屋へ戻ると、カイトはまた歌いだした。
ピアノに手をかけ、声を紡ぎだす。
「~♪……ふぅ」
カイトは、街を見て、森とここの違いに驚いていた。
森は風の吹く音しか聞こえなかったため、街の賑やかさとの違いは大きかった。
特に、噴水広場が。
「…噴水広場って使っていいのかな……?」
あのたくさんの人の前で歌いたい。
あの場に立ち、そして歌っている場面を想像するたび、その思いは強くなっていった。
「行ってみよっか……カイコさんも呼んでみよっと」
玄関で靴を履きながら、ドアに青い紙が貼られていることに気づいた。
「?……何だろ、これ……」
紙にはとても繊細な字で言葉が並べられていた。
【私はもう行かなきゃ。さよなら。
ぼくも ひとりで いくんだぜ。
じゃあね。 カイコ】
「……あれ、一緒には行けないのか……。じゃぁしょうがない、一人で行くか。」
そして、カイトは歩き出した。
噴水広場は、子供たちやお茶する人まで、色々な人で賑わっていた。
「~~っ、歌ったら、やっぱすっごい気持ちいんだろーな……」
何の決意か、よし、とつぶやくと、噴水の周りの階段に立った。
何だ何だ、とほんの少しだが人が集まってくることに嬉しく思いつつ、すぅ、と大きく息を吸う。
「……♪~この体はすべて 作り物でしかないけど
この心はせめて 歌に捧げていよう~♪……」
歌いきってふう、と息を吐くと、カイトの周りに大きな拍手が飛び交った。
「すごい!兄ちゃん歌上手いんだね!」
「素敵だったわ…!!」
沢山の褒め言葉。
それが、すべて自分に向いている。
合唱部のため多くの人の前で一人で歌うことはあまりないカイトにとって、それを貰うのは何だか珍しかった。
「あ……ありがとうございます!!」
それからカイトは、毎日、毎日歌った。
毎日、毎日同じ場所で。
雨の日は、傘を差しながらでも、
「…♪~聴こえていた声はもう無い 視えない障壁に絶えず遮られ
繋がっていた糸は絡まり 僕はただ動けず此処にいる~♪…」
パチパチパチ……………
「明日も楽しみにしてるよー!」
「風邪ひかないようにね?」
聴きに来てくれる人は沢山いた。
強風の日でも、
「…♪~祝福された大地の揺りかご 眠りに沈み 慰めの雨は止み
あるべき姿の 希望に満ち溢れた世に~♪…」
パチパチパチ……………
「毎日お疲れ様。倒れちゃったら元も子もないからね?」
「明日は何を歌うの?頑張ってね!」
皆風に耐えて来てくれた。
カイトも、それは同じで―――。
十日が過ぎていた。
たまに間を開けて同じ曲を歌ったりしていたが、それも時間の問題だろう。
持ち歌は無限にあるわけじゃない。
それこそ、メロディーや歌詞を忘れてしまった曲もある。
ここにはその曲は存在していなかったため、それを調べることはできない。
ふと、テーブルの上の楽譜が目に付いた。
「……これ……歌おう……!」
ついこの間まで毎日歌っていた曲。
気に入って、毎日練習していた。
譜が途中からだったため、1番や3番があるらしいが、これでも十分歌になっているだろう。
そうと決まれば練習。
また、ピアノに手をかけ、ちょうど十日前のように歌いだした。
いくらか練習すると、いつも広場に行く時間になっていた。
歌詞もメロディーも思い出し、覚えた。あとは歌うだけ。
広場へ行くと、いつもの場所には、大きな人だかりができていた。
「……?何だかいつもより多いな……新しく来てくれる人が沢山いるのかな?」
カイトが階段をいくつか上がり、所定の位置につくと、ざわついていた声が無くなった。
みんな、期待の眼差しを向けている。
すぅ、と大きく息を吸う。そして―――
「…♪~二番目アリスはおとなしく 歌を歌って、不思議の国。
いろんな音を溢れさせて、狂った世界を生み出した。
そんなアリスは、薔薇の花。いかれた男に撃ち殺されて。
真っ赤な花を一輪咲かせ 皆に愛でられ枯れていく。~♪…」
歌いきったが、いつもの拍手も歓声もなかった。
閉じていた瞳を開けると、皆の様子がどこかおかしいことに気付く。
目は虚ろに、顔は笑っているが、何か怖かった。
簡単に言うと、狂ってる。そんな感じ、が、した。
「み、ん…な……?」
「ククク……アハハハハハハハハ!」
「いひひひひ、ひゃっひゃひゃははぁ!!!」
声をかけると,歪に笑い出した。
誰かに手を引かれ、階段の下へ下ろされる。
その周りを、沢山の人が囲んでった。
こわい。こわい。おそろしくて、こわい。こわい。
「こわい。こわい、こわいよ……」
いつの間にか、声に出して震えていた。
と、その時。
チャキッ。
ズドン!!
「え……………………?」
じゅうで、うたれたのか。
カイトは、すぐに分かった。
頭を貫かれたが、中心ではなく、端の方を撃たれていた。
それが、長く生きれることよりも、早く死んでしまいたいくらいの声にもならない痛みを駆け巡らせる。
「……ッ、…ゥ、ぁッ、!」
フッ、と周りの人たちが煙のように消えて行った。
一人だけ、女が消えずに残っていたが。
霞んで、もうとっとと終わらせたい思考をその声が突く。
「こんにちは。夢ですよ。その歌を歌った、ていうことは終わりの合図。お疲れ様でした、貴方に物語を紡ぐ資格はなかったようだ」
夢……?あぁ、最初出会った子供か。
でも、こんな見た目でも声でもなかったはずだ。
まだ、頭はギリギリ働いた。
「さて、と。貴方はもうおしまい。ばいばい、スペードアリス。死ぬのは怖いかなぁ?」
「ふふ……」
最後の力を振り絞って出た声は、小さい。
それでも、周りに音は何一つない。聞こえているだろう。
「歌って死ねるんだよ?…………本望さ」
「!?……そう。じゃあね、アリス」
驚きを隠せない声で夢は言った。
その声を最後に、カイトの意識は途切れた。
「今回は殺す、ってホントだったのね……。可哀相に、彼の歌結構好きだったんだけどな……次は…あぁ、クローバーアリスだったわね」
広場の陰の店に隠れ、カイコは静かに呟いた。
「むぅ、またダメだったか……。彼に、出て貰おうかなぁ……?ま、必要になったら、だけど。さて、次のアリスは今までより結構期待できそうだな……あっ、もうこんな時間。急がなきゃ!!」
少女……夢は、また走り出す。
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ご意見・ご感想
☆凛音☆
ご意見・ご感想
読んだよ(^-^)/
アストリアの文才を凛音に頂戴!
自己紹介書いたから暇だったら観に来てね!
2011/10/20 20:37:45
アストリア@生きてるよ
ここまで読んだのか…ありがとな^^
なっ、文才なんてないよっ!((てかあってもあげないんだからぁっ!!(((ツンデレww
よし、自己紹介今から見に行くぞーww
2011/10/20 21:30:41
美里
ご意見・ご感想
何か人柱って自分から死に行く人が多いのは私の気のせいだろうか…
噴水広場行きたかった!私だったら特等席すぐにとるのに!
死ぬなら…レン君に殺されたいのは私だけ?←当たり前
台風すごかったね。授業参観延期になったよ。
あの人大好き!楽しみにしてるね。
2011/09/26 21:04:28
アストリア@生きてるよ
……気のせいじゃない?ww
死ぬならヤンデレンに一発!これこそ当たり前!
特等席に行くと兄さんの顔が間近で見れるかもしれません、よw
授業参観か……こっちは引き渡しだった!
ふふふ……あの人はうちのお気にだからいい感じになるように下書き頑張ってんだb
楽しみにしてくれるのか……!?ありがとよ////
2011/09/27 23:17:54
シベリア
ご意見・ご感想
カイトが歌ってるのが全部好きな曲w!うちも噴水広場にいればなぁ…
か、カイト…死ぬなぁ!うぅ…死体はうちが引き取るね((何する気だ((べ、別に…
このアリスの世界にいってカイトと一緒に死にたかったな(←!?
死ぬなら好きな人と一緒にw二次元いきたい
昨日台風すごかったね…^ω^; おかげで早く帰れたのだが…ww
そういえばアストリア今日アニメイト行くんだっけ?
2011/09/22 17:19:14
アストリア@生きてるよ
あの曲たちは兄さんの曲浮かばなかったからシベリアとのメッセ見て思いついたww
あ、兄さんの死体頼んだよ!(((ぇ
好きな人と一緒ならクオか鏡音かルカ様だな!ww
おう、アニメイト行ったよー!!AC新曲やって来たww
EX1曲しかできなかった…まぁ数多の舞だけやってないけどねww
ベティとEqua+とイヤイヤ星人超むずかった……
台風なんて嫌いwwてか風が嫌いww
台風嫌なら噴水広場行ってこいww
2011/09/22 20:02:18