「すごい、すごい、いいないいなあ、ミクもほしいなあ、これ!」
「これって、人の子をなんだと思ってんのあんた」
「ねえ、ミクオもほしいでしょう?」
「別にいらないなー。めんどくさそうじゃない」
自分の子だけでも手一杯な状況に、更に面倒な奴らがやって来た。
翡翠の髪を二つに縛った近所のクソガキその一は、二人をじろじろ眺め回している。
怯えるレンに、威嚇気味のリン。
さすが我が子、悪いものは本能的に分かるのね、とメイコは投げやりに笑う。
「ねーメイコ、カイトは?」
「仕事よ仕事。決まってんでしょ。ミクオ、年上を呼び捨てにしない!」
「……メイコおばさん?」
最近の子供の、なんと生意気なことか。
うちはこうはなるまいと固く誓う。握った拳を、クソガキその二の脳天目掛けて振り下ろした。

「レンくーん、リンちゃーん、おいでー」
ミクが両手を広げても、反応は芳しくない。
二人がやって来るまで夢中だった積木の城を、自ら崩すレン。
彼がばらしたそれを、リンは手当たり次第に投げ付ける。
地味に危険な抵抗で、それを行っているのがほんの赤ん坊というのが怖い。
「リン、物を投げちゃダメよ」
「……おかしいな、どうして懐いてくれないんだろ?」
「底意地の悪さがバレてるんじゃない?」
「それを言うならミクオだもん」
「あんたら二人とも似たようなもんよ」
「めーちゃん、取り持ってよー、わたし、二人と仲良くなりたい」
「──しょうがないわね……」
渋々抱き上げる。
二人は大人しく左右に収まるが、それでもリンは積木を一つ抱えたまま。
「ほら、ミクオ兄ちゃんとミク姉ちゃんよ、挨拶……」
小さな手から、積木が垂直に落ちた。
「……そういうのじゃなくて」
いつになく反抗的だ。
「──やっぱあんた達嫌われてんじゃないの」
間違いないだろうことにも、そんなことないとやたら自信満々にミクは言う。
「こいつら、誰に一番懐いてんの?メイコ?カイト?」
「……そうね……悔しいけど、カイト」
「ふーん」
会話の内容につい気を取られた瞬間のこと。
今までノーマークだったミクオがアクションを起こしていた。
リンのトレードマークかつ、お気に入りのリボンを、左右それぞれ掴んで弄ぶ。
「あ、こら……!」
やばい、まずい、おそい。
「──ぴゃあああああああああ!」
リンは泣いた。
これでもかというほどに。まるで当て付けのように。
「あーあー、ミクオがリンちゃん泣かしたぁー」
比例して、みるみるうちにレンの表情も変わっていく。
ステレオ地獄を知っていながら成す術もなく。続いて泣き出したレンに、メイコはただ顔を歪めた。
「なになになになになんの騒ぎ!!??」
この分じゃご近所にも筒抜けだろうなと白くなる頭の中に飛び込んできた声。
父の帰宅を認めると、ぴたりと泣き声も止まる。
「──おかえり……なさい」
「キャアアアめーちゃああん!大丈夫!?」
「カイトーゲームやろうぜー」
「あとでっ!今それどころじゃないの!」
「カイ兄ぃー、わたしリンちゃんとレンくんほしいー」
「ダメダメ!僕とめーちゃんの大事な子供達なんだからっ!」
一気にスタミナを失ったメイコを素早くソファの上に寝かせて、息をつく。
「……あのねえ二人とも、遊びに来るのはいいけど、人様の家では迷惑かけない!」
「ミクオが悪いんだもん」
「リンすぐ泣くんだもん。それよりカイト、早くゲームゲーム」
おざなりな返事に悲しくなる。
うちの子は絶対こんな風にはさせないぞと心に決めながら、カイトは背広を脱いだ。
「……分かったよ、着替えてくるからちょっと待って」
「オッケー」
「リン、レン、おいで」
絶対庇護領域を取り戻した双子は、即座に付き従う。
彼の居なくなった部屋で、メイコは低く呟いた。
「あんた達……次余計なことしたら、泣かすわよ」

「……カイ兄遅くない?」
「……遅いわね」
「まだー?」
着替えてくると告げて部屋に戻ったカイトは、十五分が経過しても戻ってくる気配がない。
それどころか物音一つ聞こえない。
「おかしい」
メイコは、訝しげに眉を寄せた。
ましてや、あの喧しい子供達まで一緒なのにこの静寂、おかしすぎる。
「メイコ、見てきて」
「人を顎で使うんじゃない」
「……じゃあ僕も行くよ」
「わたしも!」
「いいけど、大人しくしてなさいよ」
「「うんもちろん」」
ちっとも頼りにならないもちろんを揃えて、ミクとミクオは意気揚々と付いて来る。
「カイト?」
軽くノックをする。
「めーちゃん?」と、困惑気味の彼の声。
「ちょっと……助けてほしい」
「え?」
「どうしたカイト!」
「カイ兄だいじょーぶ!?」
「こら!大人しくしてなさいって言ったじゃないの!」
部屋に押し入った子供二人、後を追い掛けた大人一人は目を剥く。
「……うごけない」
「──あらまあ、仲良しねえ」
「待って!見捨てないでなんとかしてえ!」
「ひっつき虫……」
カイトの両足は、それぞれリンとレンに制圧されている。
「にっちもさっちもどうにもなんないんだってば」
「ミクが助けたげる!」
「ミク!さすが!」
走り寄って、カイトの左足にくっついたレンを抱き取るミク。
離れまいと、レンの手がカイトのズボンを握り締めている。
「ちょお、まっ、なに!なんなの!危ない!」
頼みの妻は呑気なことに、携帯のカメラをこちらへと向けているではないか。
「そんなことしてる場合!?」
「だって、可愛いじゃない。カイトは面白いし」
右足を浮かせたままの姿勢は、実に珍妙。
遠慮なく転げ回るミクオ、レンと対決中のミク、自分を心から助けようとする者は一人もいない。
本気で泣きたくなった頃、冗談よと微笑んでメイコはリンを引き受けた。
全てが至極本気にしか、見えなかった。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります
  • この作品を改変しないで下さい
  • 作者の氏名を表示して下さい

【ばぶみね】ひっつき虫を存分に妄想した【ぴこた】

あの一枚でここまでやるか

閲覧数:1,169

投稿日:2010/07/06 20:40:48

文字数:2,384文字

カテゴリ:小説

  • コメント2

  • 関連動画0

  • wanita

    wanita

    ご意見・ご感想

    なごみました☆あの一枚でここまでやってくれるとは……♪今後も期待してます☆

    2010/08/04 00:14:53

    • 音坂@ついった

      音坂@ついった

      ありがとうございます☆
      我ながらひどい妄想力だなぁとは思うんですけどそれで作品作れるならいいですよ←
      今後はもっともっと楽しめるもの目指して精進しますね!^^

      2010/08/13 22:17:38

  • 欠陥品

    欠陥品

    ご意見・ご感想

    微笑ましくて、にやけながら読ませて貰いました(笑)しかも仕事場で←

    子供って、懐かない人には絶対に懐かないですよねw

    僕はおじさん・おばさんには名前の後に、「にーにー・ねーねー」って付けてましたね。

    2010/07/08 12:42:03

    • 音坂@ついった

      音坂@ついった

      にやけてもらえて嬉しいです(笑)仕事場でちょこちょこと進めてた作品だったり←

      そうなんですよね!子供って正直ですよねえww
      そんな節も表現したかったんですがなんだかごちゃごちゃと…;;w

      おじさんおばさんに「にーにー・ねーねー」ですか!おじさんおばさんではなく…!
      私は普通に呼んでたので新しいです。なるほどそういうのもアリなんですね!(なんでにやけてんの)

      2010/07/08 22:28:23

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