「うっ、ぐすっ、えぐっ…………レンっ、レンっ…!」
泣いて泣いて、謝って、そしたら、きっと、レンはいつもの様に、
「…もういいよ。そんなに泣かれたら僕が悪役みたいだ」……なんて。
「…っ!!」
頭の中ではちゃんと分かっている。
レンが落ちたのは自分の為であること。
あの時、助けようとしていたら、自分が落ちていたか、レンがムリヤリ振りほどいたであろう事。
泣いても、謝っても、それは無駄である事。
そんな無駄なことをしても、自分が傷つくだけであること。
そして何より。
レンは、もう隣にはいないこと。もう、ずっと、会えないこと。
「ぐすっ……ひっく、えぐっ」
悲しいよ。寂しいよ。辛いよ。苦しいよ。会いたいよ。甘えたいよ。
「……っ、立たなくっちゃ、いけな、いのにっ……!!」
レンが、自分を前に進ませるためにもあんなことをした。それは分かってる。
リンは、頬の涙を袖でごしごしと拭うと、立ち上がり、スカートの汚れをはたいた。
「レン、みてて。きっと、私、帰って見せるから」
少女は、何よりももろく、触れただけで壊れてしまいそうな、小さな決意をした。
とても、とても小さな。弱い、決意を。
「……ダメだ……」
「ん?どした?」
「あっ、のね、今回のアリス、片割れを消したら、すっごく弱くなっちゃってさぁ~」
「……で?どーすんだ?」
「場合によっては、消すよ?でも、とりあえず自分で前に進んでいるから放っておくけど……準備しといて、グミヤ」
「……嫌だって言っても、聞く耳もたねぇだろ?……分かった。そいつから目、離すなよ」
「ありがと!分かってるから、ほれ、とっとと準備してこいって」
彼は、聞こえないようにしながら、深く、重いため息をついた。
淋しい。誰もいない。
いや、レンがいることに慣れてしまっているからか、とリンは思った。
一旦戻って違う道を行くと、その道は正しかったらしく、上手くあの道は抜けることができた。
出ると、大きな坂があり、そこを駆け下りると、広い、とても広い草原だった。
「……あ…ねぇ、すごく綺麗だし、広いねっ!レ………ン」
振り返っても、当然のように誰もいない。リンは、何も言わずにまっすぐ草原を駆けた。
「……グミヤ」
「ん?何―?」
「やっぱダメ。片割れ消すの最後がよかったか……てか、最初は弟が残る予定だったのに」
「それは、つまり……」
「あぁ、うん。行ってきて?よろしくねっ」
彼の心は、絶望でいっぱいだった。
それでも、お前の為なら、俺は、何でもしてやるよ。
「……行ってきます。」
「……街?」
賑わっていて、いくつもの店や家が並んでいる。
振り向けば、草原。
「……やっぱ、変な所。……水でも貰おうかな?」
近くの店の人に声をかけ、「水を一杯ください」と言ったところで気が付いた。
リンは、お金を持っていない。
あの、と言いかけたところで、目の前に水が入ったコップが置かれた。
「……えと、すいません。お金、無いんですけど……」
「いいよ。飲みな。アリスなら許すよ」
その瞬間、なぜアリスであることを知ってるんだろう、とリンは思ったが、追及はしなかった。
寧ろ顔を輝かせ、コップを手に取り、水を一気飲みした。
「んっ…、んっ……ぷはぁっ、ありがとうっ!」
コト、とコップを置くとその店を出た。
しかし、道が分からないので、適当に歩いていると、噴水広場に出た。
そこにある人だかり。しかし、その人たちはキョロキョロと何かを探しているようだった。
「えーと……どうしたんですか?」
「ん?あぁ、ここで毎日歌ってくれていた男の人がいたんだけど……急に来なくなっちゃって。皆、彼の歌、大好きだったから」
意を決して話しかけると、親切に応えてくれた。
歌……それならばと、リンは提案した。
「なら、私たちが歌います!大好きなんです、歌!……いいですか?」
「本当?私達ってことはもう何人かいるのかしら?」
そこで気付いた。「私達」と言っていたことに。
もう一人はいない。すぐそこにいたけど、もういない。
「あ……いえ、一人です……。じゃあ、行きまーす」
階段を上って立つと、ざわざわとしていた声が無くなったが、いつもと違う、見たこともない人が前に出たため、戸惑っている様子だった。
リンは、すう、と息を吸い―――
「…~♪今 気付き始めた 生まれた理由を きっと独りは 寂しい
そうあの日、あの時 全ての記憶に 宿る「ココロ」が溢れ出す~♪…」
歌い終わり、沸き立つ拍手に、リンはとても嬉しくなった。
そして、隣を見たが、もちろんそこには誰もいない。
そんなこと、分かってる。
「ねぇ、毎日歌ってくれない?」
観客の一人がそういった。
毎日歌う。
それはとても楽しそうだったが、今のリンにはそんなことをしている暇などはなかった。
相手は大人数だったので、粘ってくるかもしれない。だから、ちゃんと、キッパリ断っておいた。
「それでは、また、会えることを信じて。そのときは、また、私の歌聞いてくださいっ!」
できれば2度と会いたくないけど。
自分で失礼だな、と思って苦笑いしたが、こう思っていることは事実だった。
町を出て、広い草原を、またリンは駆けた。
ずっと走って辿り着いたのは、大きな城。
レンは、この近くに落ちたはずだが、どこにもいなかった。リンは、城の中を探そうと、門に近づいて行った。
先ほどは上から見ていたので小さく見えたが、近くで見るとなんて大きいのだろう、この城は。
門の目の前まで来たが、誰もいないようだ。ベルやインターホンなんて物は無い。
まぁ、いいか。
そう思ってリンが城内に足を踏み入れようとした瞬間、
「ちょっと、いやずっと待て」
つまらない冗談だ。それでも人がいると分かっただけ良かった。
そう思いながら、リンは振り返った。
「……グミヤさん、でしたっけ?」
フードを深く被っていたが、顔はちゃんと見えた。
彼は、ここに来る前にあった。覚えていないわけがない。彼に眠らされて自分はきっとここにいる。
―――なくなった、レンも。
「よく覚えてたね。片割れの弟君は?」
「崖から、落ちちゃって。今は、いません。……それで、何の用ですか?ここに私たちを連れてきたのって、貴方ですよね?」
彼は、その質問に対し、
「うん。君らをここに連れて来たのは俺らだよ。それと、何の用、か………これで分かるかな?」
そういうと、グミヤは懐からナイフを取り出した。そして、刃先をリンに向けた。
殺される。
リンはそう思ったが、不思議と怖くはなかった。
「……何とも思わね―の?」
「…思うよ。ナイフだ、殺されちゃうんだぁ、って」
ついさっきまでリンは敬語だったが、グミヤの言葉遣いが崩れたので、リンはそれに合わせた。
「……それだけ?じゃあ、こうしたら?」
近づいて、胸にナイフの先が当たった。そして、ピッ、という音を立てて服に付いていた黄色のリボンが切られ、ひらひらと落ちた。
それでもリンは、表情一つ変えなかった。それを見て、グミヤがへぇ、と声を出し、ナイフを降ろして一歩後ろへ下がった。
そして、リンは、ゆっくり瞬きをして、言った。
「……私のせいで、レンが崖から落ちて、死んじゃって。本当は、ずっと傍に居たかった。けど、早く、家に帰ろうって思ったから、色んな気持ち押さえ込んで、助けてくれたレンのためにも前に進もう、って頑張った。けど」
そこで、リンは一度、言葉を切った。
「……だけど、もう無理。一人じゃ、すっごい寂しかった。すぐそこに、レンがいるのが当たり前だったから、隣に誰もいないのが悲しくって、苦しくって。…だから、私、レンのところに行きたいな。家に帰りたいし、何よりルカ姉とルキ兄に会えないけど、レンがいないなら生きてても空しいだけ。ぽっかりと穴が開いた。みたいな。」
そこで初めて、真っ直ぐグミヤを見た。そして、優しく、弱々しく笑った。
「私、こんなに弱かったんだね。……いいよ、殺しても。レンのところ、行けるし」
その声を聴くと、グミヤは、一気に距離を詰め、リンの胸のあたりにナイフを―――。
「……なんで、泣いてるの」
グミヤの両頬に伝う涙が、リンには見えた。
「……ははっ、俺とお前はよく似てるな。俺はな、すっげぇ大事な奴にお前を殺すよう言われた。…今まで、俺、人を殺したことあるんだ。その時は、何とも思わなかった。でもな、前回のアリス……クローバーアリスだ。そいつはな、…いや、そいつだけじゃねぇ。今回の奴全員が自分から「殺せ」と言ってる」
背中を手で支え、胸にナイフの刃先を当てたまま、彼は話した。
そういえば、レンは、私のために自分から落ちてった……
グミヤの話を聞いて、リンは、レンが崖から落ちる瞬間を思い出した。
「んな事言われたりしたら、自分が正しいのか分かんなくなってきてさ。……でも、俺の世界には"あいつ"しか居ないから、あいつが一番正しいって、あいつのためなら、俺は何でもするって決めた。……それがどれだけ弱い決意なのかは自分じゃわかんねーけど」
そういうと、グミヤは静かに目を閉じた。
「こんなこと、お前に話しても意味ねーけどな。…んじゃ、やるぞ。…悪いな」
リンの背中の手に力が入った。
そして、グミヤの涙は再び流れた。
「…いいよ。あと、謝らなくったっていいよ。これは、私が望んでいることだから。レンのもとへ、早くいかせて」
そして―――。
「レン……」
リンの声は、優しく消えた。
「……グミヤ。―――まさか、裏切るの?」
少女の目は、氷より冷たかった。
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ご意見・ご感想
芽莉沙
ご意見・ご感想
リィーーーンっっ!!!
やだだめまってぇぇぇぇえ!!!!
もうウチ殺していいからアストリア書き変えt(((やめい
…ちょっとリンちゃんとグミヤ君の間に入ってくる←
かぐみねサンド…なんておいしいんだ…(((違
次回も楽しみに待ってるお!
2011/11/08 16:51:23
アストリア@生きてるよ
うぅっ……芽梨沙……遅かった……もう、リンは……←
やだやだやだ!それはヤダ!芽梨沙を殺すなんて…うちには出来ないよ……((フッ(((死
あぁぁぁぁぁぁぁだめぇぇぇぇ!!ナイフ刺さっちゃうよ!
……確かに、ミヤリンサンドは美味しいけどな!((爆
コメありがとよ!待っててくれるだなんて…嬉しいぜ☆
2011/11/08 18:42:03
美里
ご意見・ご感想
わあああああああああああああああああああああ
リンちゃああああああああああああああああああああん!
リンちゃん強い!大切な人を失っても自殺しなかったリンちゃん強い!
グミヤくん!リンを刺しちゃダメ!いくらあの子に言われたからってやっちゃダメ!
ナイフってのはね、人を刺すものじゃないんだよ!人を斬るものなんだよ((どっちも同じ
二桁突破ぁぁぁぁ!これからも応援してるよ!
あと、アストリアって呼ぶの、長いから他の呼び方したいんだけど、いい?
次回を楽しみに生きていきます!
2011/11/07 17:24:21
アストリア@生きてるよ
だよね!リンちゃん強ぇ!レンの分も生きる、って思ったのかもね…((テメェ作者だろ
グミヤも何か言葉じゃ語れないような何かがあったんだよ…((だからテメェ作者だろ
ナイフはね、刺すんじゃなくって貫くものさ!((これも違ぇw
そう!やっと2桁突破応援ありがとう!
いいよ!長いもんね、この名前ww好きに呼んでおくれ?^^
いやいや、自分の為に生きようぜ!次回投稿しないかm(((す・る・よ・なぁ?((ニコっ
2011/11/07 19:08:14
ゆるりー
ご意見・ご感想
ああああああああああああああああああああああああああ((
リンちゃん待ちたまえ!グミヤも待ちたまえ!!
リンちゃんの代わりに私が死ぬ!グミヤ、リンの代わりに私を!!←
…あ、どうも。お邪魔しておりますです。
…やっぱりナイフを渡しなさい!子供がそんなもの持ってちゃ危ないでしょ!!((
それはね、ほら、的に向かって投げるんだよ!((それも危ないわ
2011/11/07 16:42:27
アストリア@生きてるよ
待て待て待て!死ぬな!ゆるりーさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!←
実はですね、夢さんとグミヤ君はですね、夢の中で生活しているので衰えないんですよw
なので、実はグミヤ君人間にはあり得ないくらいのお歳かも……!?ww
的に向かって投げるのは、ちょっと待とうぜ!w
コメ有難うございました!
2011/11/07 19:03:36
雪葉
ご意見・ご感想
わぁあああああああああ
リンを殺すなぁぁぁ殺すなら私を殺せ!
それかそのナイフを渡せ!私が白ネギをおいしく調理するから!緑は敵だぁ!あ、ミクとGUMIは好きだよ?
次回が楽しみです!
2011/11/07 13:39:06
アストリア@生きてるよ
こんにちは!コメ有難うございます!
でもでも、リンちゃんは自ら死ににいったぜ?ww
白ネギは生で食うのがミク流!ちなみにうちは鍋流!w((聞いてない
確かに、緑は敵だ!だがうちはミヤグミクオ応援派だなー……((ぇ
2011/11/07 15:36:58