一応カイレンなので注意。そういう雰囲気は特にそんなにはない……と思いたいw

修正入れました。
色々気に食わない部分があったので(リンはどうしたって思ったんさ……)、その辺りを。
ちなみにカイトの一人称は「俺」でいいんですよね?;;

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ある初夏の真っ青な空にツバメが飛び交うような穏やかな日だった。
太陽が12時を指している。
朝からご機嫌だった君は「こんなに天気がいいんだから、外に行こうよ」なんて言う。だから俺は張り切ってピクニックの準備をしてしまった。
俺達はまだ背の低い蕾のヒマワリが何百本と咲いている場所で弁当を広げた。
君はサンドウィッチを頬張りながら、「ヒマワリが咲いたらまた来よう」と俺にその太陽のような笑顔で言う。俺はその時君に「この何百本のヒマワリよりも、君の方がずっとずっと綺麗だ」なんて台詞を言いたいなと思った。
そして今ふと思ったことを言ってみたいと思った。手に持ったサンドウィッチを膝の上に置いて、君の碧い瞳を真っ直ぐにみて言った。
「俺にとって君は太陽だ」
君は驚いて目をパチクリさせた。話の内容に全然関係ないことを言ったからだと思う。自分でも気障な台詞だと思うけれど。
でも君は突然笑い出したかと思うと、頬を少し紅潮させてこう言った。
「じゃあ、カイトは空だね。太陽は空が無いと昇れないから」
俺にとってその言葉は最高の愛の告白だった。髪の色も目の色も育った場所も宗教も違う俺らだけれど、一つだけ一緒に居られる場所があったんだと気付かされたから。
俺らは手を繋いで帰った。ランチバスケットの中は空っぽ。君はそれを振りながら歩く。太陽は少し右へと傾いていた。
家の周りは自然にできた花畑が広がっていて、道は小さな村への農道があるのみだ。
この村は酪農で生計を立てていて、時々農道を牛を乗せた荷馬車が通るのみの、長閑な農村だ。
俺達のような不自然な家族が住むにも、君の身を隠すにもちょうど良かった。
今日もまた市場へ向かう荷馬車とすれ違った。
「見て、仔牛が載ってる」
「うん、そうだね。これから売られるんだろう」
君は悲しげにその長い睫毛を伏せて、「かわいそう」と言った。そして十字を切り、「ドナ」と呟いた。
その姿は、数か月前に君にそっくりの肉親が、連れていかれた時の夜、鏡に向かって祈っていた姿と同じだった。
誰にも見られていなかったろうか。周りを見渡すも、どこまでいっても空と太陽と牧草地が続いていた。
「行こう」
俺は君の小さな手を引いて、家までの道程を歩いた。こんな幸せな時が、ずっと続けばいいなと思いながら。

でも、それは嵐と共に突然やってきた。
家に着いてしばらくすると雲一つなかった空が真っ暗になっていた。
「降り出すかなあ?」
そう言って窓から外を見た君の横顔が、一瞬で凍りつくのが分かった。
革靴の音がする。規則正しい何人もの人間の踵が高らかに鳴っている。音で表すなら「ド・ファ」。
俺が君を窓辺から室内へ体を引き入れた時に、黒い人々が見えた。
震える君の肩を抱きしめ、俺はただ祈るしかなかった。どうかここには来ないでください、と。
しかし祈りは届かなかった。軍服と銃を持った男たちが扉を破って入ってくる。
「引き渡せ」
低い声で、無感情な声が俺たちに向けられる。俺はレンを抱えて裏から家を飛び出した。
「パァンッ」
耳をつんざく様な音と共に、脇腹を鈍い痛みが走った。
「カイトっ……カイトっ!!」
君はその白い服と肌を赤い血で濡らしていた。そして、瞳から大粒の涙がぽろぽろと零れ出す。
蹲る俺の傷口を押えていた君の手が、引き剥がされる。見上げると軍服の男が、君の腕を掴んでいた。
「嫌だ!離してよ!!カイトがっ……!!」
軍人は泣き喚く君を銃で脅して連れていく。そして、格子付きの荷馬車に押し込まれた。
雨が降り出した。大地に降り注ぐ大粒の雨は、なだらかな坂を滑るように小さな流れを作った。そこに赤が交じって流れ出す。
俺は体を引き摺りながら、荷馬車に向かう。君の俺を呼ぶ声が聞こえる。俺は君の名を叫んだ。
しかし荷馬車は嘲笑うかのように、ゆっくりと走り出した。
小さくなっていく荷馬車を見ながら、俺は叫んだ。言葉ではなく感情をそのまま音にして。

そして、俺は呟いた。

「アドナイ」

君の信じた神の名前を。迫害から逃れるために「ドナ」と君は呼んでいた。
「アドナイ、俺の国の者に彼が連れていかれます。どうかあの可哀想な仔牛を御救い下さい。あなたを信じ続けた故に連れていかれる彼を」
雷鳴が鳴り響く。雨は止まない。俺の体を冷たくする気なのかもしれない。
空を見上げる。一面に黒い雲が広がり、太陽は見えなくなっていた。
ああ、太陽がないから、空は真っ暗になっているんだな。

俺は目を閉じた。
真っ青な空と、一面に広がるヒマワリを前に、太陽の笑顔を俺に見せる君の姿が浮かんだ。
意識が薄れていく中、それが俺の瞼の裏に最後に映った映像だった。
俺は言おうと思っていたあの台詞を囁いた。

「この何百本のヒマワリよりも、君の方がずっとずっと綺麗だ」

君と太陽とヒマワリと空と――。
俺は最期に、笑った。

ライセンス

  • 非営利目的に限ります

【小説】ドナドナ

「ドナドナ」
安井かずみ訳詞・ショロム セクンダ作曲

ある晴れた 昼さがり
いちばへ 続く道
荷馬車(にばしゃ)が ゴトゴト
子牛を 乗せてゆく
かわいい子牛 売られて行くよ
悲しそうなひとみで 見ているよ
ドナ ドナ ドナ ドナ
子牛を 乗せて
ドナ ドナ ドナ ドナ
荷馬車が ゆれる

青い空 そよぐ風
つばめが 飛びかう
荷馬車が いちばへ
子牛を 乗せて行く
もしもつばさが あったならば
楽しい牧場(まきば)に 帰れるものを
ドナ ドナ ドナ ドナ
子牛を 乗せて
ドナ ドナ ドナ ドナ
荷馬車が ゆれる


童謡として親しまれている「ドナドナ」の解釈と世界観を元にした別物の小説。
全く問題ありまくりなカイレンなので、嫌いな人はバック!
実はカイレン好きだとか言ってみるw
イラスト等、コラボ募集中。

閲覧数:1,051

投稿日:2008/07/21 13:33:31

文字数:2,167文字

カテゴリ:小説

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    ご意見・ご感想

    >yamakawa01さん

    メッセージありがとうございます!
    ドナドナを調べていて、その詩の深さに感銘を受けて書いたものです。
    感動したと言って頂けて嬉しいです。

    一応レン視点の方もあるので、もし宜しければ読んで頂けたらと思います。

    「ドナドナ」~レン視点~
    http://piapro.jp/content/rc9ovx5ru7ye07va

    それでは、メッセージ&ブクマ有難う御座いました!

    2009/03/07 11:18:49

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