僕は鏡音レン。
ここ暫くの間、毎日が驚く事の連続で何だか気持ちが落ち着かない。
今日もルナさんから告白されて…と言っても勿論¨愛の告白¨じゃないからね!
その後、僕は数年前にMARTへやってきたルナさんに初めて出会った時の事を思い出した。
…今でも覚えてるよ。
メイコ「…嫌よ!!」
カイト「めーちゃん、分かってくれ…ルナはもう俺達の敵じゃないんだ。今はMARTの一員で大切な仲間だ。」
メイコ「…大切な仲間、ですって?まさか忘れたって言わないわよね?この女は私やカイトの命を狙っていたのよ!?私達の目の前で仲間を殺そうとした時もあった!そんな奴を仲間にする?馬鹿言わないでカイト!」
メイコは厳しい表情と態度でカイトに迫った。
元トリプルエーの天音ルナを仲間に迎える?信じられない、といった感じに。
だがカイトは何とかしてメイコを納得させようと試みていた。
だがメイコのその表情は壁そのものだった。
カイト「ルナは変わったんだ。確かにこれまでの戦いで幾度と無く俺達とぶつかった。だけどMARTの事を知って、俺の思いを聞いて信じてくれた。ルナはめーちゃんの知る悪い奴じゃな…」
メイコ「嘘よ!信じないわ!ふざけないでカイト!」
カイト「気持ちは分かる、だけどめーちゃん…」
パチンッ!
きついビンタの音が、むなしく部屋に響き渡る。
不意の痛みで、カイトは思わず顔を押さえた。
カイト「痛っ…!」
メイコ「…今の私には、もう信用できないわ。カイトも、ルナも…!」
カイト「…待って、めーちゃん!」
メイコ「…もう知らない!!」
カイト「めーちゃん…!!」
遂にメイコは我慢できなくなってしまい、この場を飛び出した。その目に涙を浮かべながら
その後に残ったのは、沈黙だけだった。
棒立ちになったカイト。そしてずっと2人を見ていたルナが口を開いた。
カイト「めーちゃん……」
ルナ「…無理もありませんわ。例え貴方がそう思わなくても、あの人にとって私はいつまでも悪夢を植え付けた¨魔女¨なのですから。」
カイト「ルナ…」
ルナは暗く、重々しく言った。メイコが自分を憎んでいるのが誰よりも分かっていたからだ。
そこへ起床してきた鏡音レンの明るい声がやってきた。
レンはいつもと変わらず、カイト達に笑顔を向けようとしていた。
レン「おはようございま……あれ?カイトさん?」
カイト「レン君…」
レン「カイトさん、この人は?」
カイト「あ、ああ。この人は今日から俺達の…仲間になってくれる天音ルナさんだ。」
レン「初めましてルナさん、鏡音レンです!」
ルナ「…宜しくですわ、レン君。」
ルナは少し微笑んだ…といっても作り笑いだったが、何の抵抗も無くやってきたレンの方に歩み寄っていった。
だがそれを見たモモが突然ルナの前に立ちはだかった。
その場にいた全員が一体どうしたのかと思った。
モモ「…ごめんなさいルナさん。レン君に近寄らないで下さい。」
レン「…モモさん?」
ルナ「…貴方も、私を許していないのですのね?」
ルナはほんのちょっと、睨みつけるようにモモを見た。あたかも敵を見るような目で。
だがそんなルナにモモは動じていなかった。
モモ「いいえ……ルナさん、私はあなたの事を信じたいです。私はメイコさんのように、ルナさんへの恨みはありません…でも1つだけ無理な事があるんです。」
ルナ「…………………」
モモ「今のルナさんに、レン君へ近寄らないで欲しいんです。」
カイト「モモ、お前…」
ルナ「…どうしてですの?」
モモ「今のルナさんは…とても怖いんです。カイトさんからお話を聞いてルナさんは昔は悪い人だったけど、今は良い人なんだって分かりました。」
ルナ「え…?」
モモ「それでもルナさん、あなたの¨目¨がまだみんなに牙を剥いているように…見えるんです。だからそんな人を、レン君に近づけたく無いんです。」
ルナ「…そう。そうですわよね。」
モモ「ごめんなさい…どうか気を悪くしないで下さいね。」
ルナ「…いえ。貴方の言葉はごもっともですわ。私はこれまでずっと、無知の場所で無知の知識を与えられ、罪悪感も無く知らず知らず最悪の罪を犯してきたのですから。なら目や心が汚れているのも、必然と言う事ですわよね?」
モモ「ルナさん…」
ルナ「…私の¨目¨がそうなら、早く皆さんに近づけるように…心を入れ替えなければいけませんわね。」
ルナは目をつぶって、下斜めを向いたままゆっくり椅子に座り込んだ。
その日は満月の夜で、MARTの本部には明るい月の光が射していた。
カイトの方には見えていた。月光に照らされたルナの右目から落ちた小さな涙が。
この頃が、天音ルナにとって一番辛かっただろう。
自分の過ちの重さ。
それが改心したルナに、大きくのしかかった。
ルナ「私は…」
…そうだ、あれからもう何年が経ったのかな?
気がついたらルナさんのいる生活が当たり前に、ルナさんのいないMARTが考えられなくなっていた。
ルナさんが昔MARTの敵だったとか、もうそんな事は関係ない。
僕もみんなも、ルナさんの事が大好きだから。
今となっては、メイコさんも同じ気持ちの筈だ。
レン「ただいま!」
ルナ「ただいまですわ。」
いろは「あ、お帰りなさいですにゃ!」
メイコ「2人ともお帰りなさい。これから夕食の準備があるんだけど、手伝ってくれる?」
レン「分かりました!」
ルナ「勿論ですわ。」
メイコ「今日はね、ルナの大好きな月見団子を作ろうと思ってたのよ!」
ルナ「メイコさん、まだお月見の時期じゃありませんわよ。」
メイコ「いいのいいの。月見なんて別に時期じゃなくても良いじゃない。それに今晩は晴れだそうよ!」
ルナ「それなら、今夜はベランダでみんなと月見パーティーですわね。」
メイコ「良いわね、そうしましょ!」
ルナ「ふふっ、多めに作らないと団子の数が足りなくなってしまいそうですわね。」
レン「ルナさん、団子一緒に作りましょうよ!」
ルナ「よし、それなら私とレンで幾つ団子を作れるか競争ですわ。」
レン「負けないですよルナさん!」
ルナ「いきますわよ?」
レン「はい!」
メイコ「あの…ルナにレン君?」
ルナ・レン「はい?」
メイコ「まだ生地の準備すらできてないんだけど…?」
ルナ・レン「あ……」
メイコ「もう、2人ともせっかちなんだから。」
ルナ「ふふっ…!」
レン「あはははっ!」
私はMARTという大切な家族ができて…とても幸せですわ。
本当に良かった。こんなボーカロイド達と出会う事ができて。
みんな、ありがとう…!今の私は本当に、幸せだよ…!
そんな幸せに包まれていたルナに、一本の電話が。
¨プルルルルル…¨
メイコ「はい、こちらMART北部支局です。」
???「失礼ですが、そちらに天音ルナという方はいますか?」
メイコ「ルナですか?ええ、います。貴方のお名前は?」
???「申し訳ないのですが、ご本人でなければお話できません。ルナさんと代わって頂けますか?」
メイコ「分かりました。暫くお待ち下さい。」
ルナ「メイコさん、どうしましたの?」
メイコ「貴方に代わって欲しいらしいの。名前は本人じゃないと名乗らないって…」
ルナ「…代わりますわ。」
ルナは恐る恐る電話に出た。名前を名乗らない相手の電話に出るのはいかがなものか…
嫌な予感がする。
そう思うのとは裏腹に、ルナはちょっとした¨興味¨をもっていた。
???「天音ルナ、だな?」
ルナ「どちら様ですの?」
???「ああ、名乗る必要は無い。ちょっとした朗報と悲報を届けてやろうと思ってね。」
ルナ「何を…?」
???「朗報からいこうか。キミ達の大嫌いな理事会とトリプルエーは、暫くの間はMARTに手を出さないだろう。」
ルナ「…手を出さない?どういう事ですの?」
???「距離を置く事にしたのさ。例の¨銃撃事件¨によってな。」
ルナ「銃撃事件…カイト総長が襲われた、あの?」
???「次に悲報だ。天音ルナ、今日をもってキミはとある組織に狙われることだろう。」
ルナ「!?」
???「人気の無い場所を通る時は、せいぜい気をつけるんだな。」
ルナ「さっきから何を…」
???「月から舞い降りた女神、キミに幸あれ。」
¨ガチャッ、ツー、ツー¨
ルナ「…………………」
メイコ「ルナ、何があったの…?」
ルナ「…何でもありませんわ。私に対するただのイタズラ電話だったようですわ。全く最近のボーカロイドはモラルというものが欠けてしまっていますわ。」
メイコ「そう…」
メイコは分かっていた。ルナが明らかにごまかしているのが。
メイコはルナのように読心術をもっている訳ではないが、その感じからしてただの悪戯電話だったとは思わなかった。
ルナは何かを思い詰めたように、自分の部屋へと戻っていったのだった。
メイコはそれ以上、話を突っ込む事ができなかった。
そのまま夜が明け、いつもと変わらない朝を迎えたのだった。
今日でMART北部支局を離れ、東京の本部に戻る予定になっていた。
カイト「よし、準備もできたな。じゃあ出発しようか。」
メイコ「本当ならルカが帰ってくるまでいたかったんだけどね。」
カイト「仕方ないさ。いつまでも本部を離れている訳にはいかないからな。」
モモ「いろはさん、ルカさんに宜しく伝えて下さいね!」
いろは「分かりましたにゃ!帰り道は気をつけて、行きはヨイヨイ帰りはコワイですにゃ。」
カイト「おいおい…いろは、縁起でもないぞ。」
いろは「ごめんなさいにゃカイトさん。」
いろはは悪戯に笑った。こうしてMARTの一行は東京に帰るのだった。
再び、命を懸けた戦いの備えをする為に。
そして別れの時が来た。ルナは世話になったいろはに礼をした。
ルナ「お世話になりましたわ。」
いろは「いえいえ、またいつでも来て下さいにゃ。ルカさんも喜びますにゃ!」
リン「いろはさん、また遊んで下さい!」
レン「僕達のMART本部にも、いつか来て下さいね!」
いろは「嬉しいにゃ…鏡音ちゃん、また近いうちに会いたいにゃ!」
カイト「さあ、リンちゃんとレン君も行くぞ。」
リン「バイバイ、いろはさん!」
レン「さようなら、いろはさん!」
いろは「みんな、元気でにゃ!」
いろははとっても嬉しそうだった。だがそれとなく名残惜しそうな感じがしていた。
本当に短い時間であったが、それはリンとレンも同じだった。
別れの時が近づく。
でも東京行きの飛行機は待ってくれない。
MARTの一行は、いろはに見届けられてこの場所を後にした。
いろは(カイトさん、後は頼みましたにゃ。私達ボーカロイドの未来を、どうか…!)
カイト(いろは、任せろ。成し遂げるさ…俺達の手で必ず…!)
2人はまるで心の内で通じ合っているような想いを持っていた。
そしてそれは、未来への希望を託した想いだった。
全ては、アンドロイド達の未来の為に。
カイト達MARTは、これまでに無い果てしなく強大な敵に戦いを挑む。
たとえそれが、蟷螂の斧を振るような戦いであるかもしれないと、心の何処かで思っていても。
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考え過ぎて馬鹿になってはいけない
所詮僕らは人間だ
硝子の破片を丁寧に拾っていては
誰だって生きづらいだろう...publicdomain
Kurosawa Satsuki
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ご意見・ご感想
enarin
ご意見・ご感想
こんにちは! コメ遅れてごめんなさいませ。
さて、前半最後のお話ということで、後半につながる形で展開していきましたね。さて、狙っているのは誰なのか? 楽しみです。
そして、なにげに”いろは”さんの”にゃ”口調が好きだったりしますにゃ。私もシリーズ通して、ミクさんキャラの口調はほとんど”ミクミク”だったりしますので、結構くせになりますよね。
さて、後半は書き方を少し変えるとの事で、結構、興味津々だったりします。私は頑固に変えてないしなぁ。
ブクマも頂きました。ではでは~♪
P.S 天候不順で気温差もありますので、是非ともご自愛くださいませ。
2012/05/02 16:05:53
オレアリア
enarinさん、今晩は!
いつもながらメッセージのお返事が遅れてしまい申し訳ありません(汗)
今回の21話でボカロハーツの前半が終わり、この物語の節目になりました。と言ってもまだ後半に入る雰囲気があまりしないままですが…w
ルナを狙う者の正体についても、ストーリーの終盤に明らかにしたいところですね。
いろはの感じはこのボカロハーツでは少し異色(?)のような感じになってます。enarinさんのミクも¨ミク¨が口調になってますよねw
口癖が無くても良かったようにも思いましたが、語尾に¨にゃ¨がつくキャラがあっても良いかなって考えました。
その方が魅力があって←
リア友の意見もあって、「より小説らしくしようか…」と思い、次回から文体を変えてみようかなと考えました!
どんな感じになるかは大体構想はできているのですが、良い方向に向かうのかが不安です…
ブックマーク本当にありがとうございます!
enarinさんのメッセージも大きなモチベーションになっています。
今回も拝読して頂いて、重ね重ねありがとうございました!
追伸:5月にも関わらずこちら京都は強く寒い風が吹いています…おぉ、さみぃ……
体調にも気をつけます!
2012/05/13 18:33:14