投稿作品20作品
もっと見る-
私がお姉様にお会いしたのは卯月の半ば――
桜が終わりの頃の事でした。
当時私は母を病で亡くし、母以外に身寄りと呼べる者が全くおりませんでした。
いえ、正確には父がおりました。
しかし父は私と母とは別に所帯を持っており、父が顔を出すのは極稀でした。
当の私も父の事は幼い頃に辛うじて覚えているだけであり...‐雛逃げ‐弐 (百合につき注意)
-
―――…姉様、お姉様、お姉さま…
私のただ一人の姉妹
私の大好きなお姉様――…
私達、あんなに仲が良かったのに
何時からこうなってしまったのかしら―――?
ねぇ?お姉さま――――...‐雛逃げ‐壱 (百合につき注意)
-
店に戻ったるかは裁縫箱を取り出しました。
「それにしても貴方も酷い人ね
私を見た途端『初めまして。こんにちは』だなんて
まるで私達他人みたいじゃないの。嫌な人」
るかは笑いながら言うと
最後にあの裁縫鋏を取り出しまして――…
「『だけど仕事は頑張らなきゃ』」
あの口癖を言いました。
「あら貴方、『こ...円尾坂の仕立屋 終幕
-
るかに肩を叩かれた男は振り向きました。
そして――――
『 』
次の日の朝、
るかはいつもの様にお店を開ける準備をしていました。
今日は町中が酷く大騒ぎしています。
「今日は随分騒がしいわね。何かあったの?」
るかが近所の人に聞きました。
「あれ?!るかちゃん知らないの!?
ま...円尾坂の仕立屋 第六幕 -青い襟巻の男 弐-
-
「…さぁ、ようやく仕事も一段落したわ……
私が忙しくてあの人が会いに来てくれないのなら
私の方から会いに行きましょう…」
るかは笑いながら裁縫箱を片付けると
仕度に取り掛かりました。
「あの人驚くかしら…今の私を見たら何て言うかしら…
『もう浮気なんかしないよ』って言うかもね…フフフ」
るかは尚も笑...円尾坂の仕立屋 第五幕 -青い襟巻の男-
-
広いダンスホールの中を
白いドレスのサンドリヨンと皇太子は優雅に踊り回る。
他の出席者達も我を忘れた様に二人の姿に見入っていた。
『なんて素敵……』
『彼女は何処の御令嬢だろうか?』
『皇太子となんて羨ましいわ…』
そんな声が飛び交う中、二人は尚も踊り続けた……
――やがて二人の足が止まると、瞬く間...Cendrillon‐サンドリヨン‐withぽいど兄妹Ⅲ
-
「一体師団長は何を考えておられるのだ…全くもって解らん」
「全くじゃな……」
広い廊下を三人の年配の男性がそんな事を言いながら歩いていた。
幾数十年からの栄光と莫大な国家と軍力を誇るこの国は長年に渡り近隣の小国との戦争を強いられていた。それもつい最近までは誓約や同盟を結ぶことで回避し続けどうにか『冷...‐焔焉‐焔(ほむら)
-
その次の日、るかは新しい反物を買いに行きました。
町は昨日よりも俄かに騒ぎ立てています。
「またなにか事件ですか?」
るかは反物屋の主人に聞きました。
「あぁ…次は若い娘が殺されてな。…今度は帯が無くなってたそうだ」
「まぁ。殺した上に着物や帯を盗むなんて嫌なものね」
「あぁ全くだ。るかさんも気ィ付...円尾坂の仕立屋 第四幕 -黄色い簪の少女-
-
その日の昼過ぎ、るかは仕立てに使う縫い糸がなくなったので隣町に買いに出かけました。
町はいたって普段と変わらない穏やかで平和な日常です。
「いらっしゃいるかちゃん」
「こんにちは。いつもの糸を下さいな」
「あぁ。待っとくれ……しかしるかちゃんもわざわざこんな遠くまで買いに来なくても近所じゃあもっとい...円尾坂の仕立屋 第二幕 -赤い着物の女-
-
しばらく広間を見下ろしていた神威がふと扉の方を見ると
一人の娘がいた。
金色の刺繍の真っ白なドレスにバラの花をモチーフにした髪飾りをつけた短い髪は深い緑色だった。
彼女はこのような舞踏会は始めてなのか
時おり人にぶつかりながらあちこちを歩き回っている。
すると娘が階段につまずいて転びそうになった時―...Cendrillon‐サンドリヨン‐withぽいど兄妹Ⅱ
-
豪華なシャンデリアに照らされた大広間、薄絹のカーテンが掛かったステンドグラスが輝く窓、人々の笑顔と話し声
女性達のドレスの衣擦れの音――――
一国の城に相応しくまさに豪華絢爛な舞踏会である。
その舞踏会の中央広間にある階段上――本来なら
この舞踏会の主役でもある皇太子神威はうんざりとした
様子で椅子...Cendrillon‐サンドリヨン‐withぽいど兄妹Ⅰ
-
次の日、るかは頼まれていた仕立物を届けに町へ出掛けました。
町はいつもと違い何やら不穏な空気に包まれています。
「こんにちは。何かあったんですか?」
るかは届け先の人に尋ねました。
「ああるかちゃんは知らないのか…実は昨日この近くで人が殺されたんだよ」
「まぁ人が…!」
「まぁな…私も噂で聞いたんだ...円尾坂の仕立屋 第三幕 -緑の帯の娘-
-
がくぽは小さな温室の中にいた。
白い鳥籠のような形のその中ではたくさんの花々が咲き乱れており中は咲きつくしたらしいどこか甘ったるい香りが立ち込めている。
片隅にただ一つだけ置かれた白いベンチに腰掛けて周りを眺めていると近くの花に爪先が触れた。柔らかな花びらは爪だけで触れていても破れてしまいそうだ。
...バタフライ-がくぽSide-
-
昔、マスターが僕にこう言った…
『人間(ひと)は皆自分色の宝石を持っているんだ…宝箱の様に自分だけの部屋を自分色の宝石で飾っているんだよ』
『素敵ですねマスター…その宝石は僕にもあるんでしょうか?』
『さぁ、どうだろうね……』
Jewel~僕だけの宝石~
「マスター。その曲前言っていた新しい曲ですか...Jewel~僕だけの宝石~1
-
「あ~ぁ」
レンは空を見上げると何度か分からないため息声をあげた
お使いに出掛けたのはいいが店を出て少し歩いた途端雨に降られてしまい、仕方なく近くの別の店で雨宿りをしていた。
幸いにも頼まれたお使いは全て済んでおり後は帰るだけだがこの雨ではどうしようもない。激しい雨なら少し雨宿りすればすぐに上がるし...バタフライ-レンside-
-
「………はぁ」
お店に入ったるかは小さな溜め息をつきました。
そして壁に貼ってある暦表の日付の一つを墨で消しました
「……また、帰って来なかった」
実はそんな評判の良いるかにも一つだけ悩み事がありました。それは彼女の愛するあの人がひどい浮気性な事です。
彼は自分と言うものがありながら滅多に家に帰って...円尾坂の仕立屋 間幕‐仕立屋の若き女主人‐