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ルカの言葉に、神威は目を見開いた。
元来から実直生真面目で、嘘を吐いて誤魔化すというようなことは出来ない男である。
そんな神威の様子にルカは確信を得たようで、嫌悪感を露にした。
「最近、度々夜中に出かけているって聞いたわよ…付き合いもあるかも知れないけれど、貴方がそういうことをする人だとは思わなかっ...夜明けの夢 【第三章】 壱:答のない月 (がくリン)
モル
数年前に隣国との戦争が終わり、今は次の戦争に向けて国内の軍備増強に余念がない。
神威の周囲でも何人か、国外に派遣された者もいた。
中には、先の戦争に参加していなかった者も多く――彼自身も、まだ軍に士官もしていなかった――所謂“左遷”であるにも関わらず、不安と未知の世界への奇妙な高揚を抱えて日本を出て...夜明けの夢 【第三章】 序:彼の日常 (がくリン)
モル
それからレンは、今まで会えなかった間、手紙を寄越さなかった間のことをつらつらと話した。
毎年冬場には風邪をひいていたが、昨年はひかなかったこと。
以前は低いと悩んでいた背も、この数年で随分伸びたこと――実際、別れた時はリンの方が背が高かったくらいなのだが、今は目線も同じくらいになっていた。
陰間茶屋...夜明けの夢 【第二章】 漆:予期せぬ人 (がくリン)
モル
それは、紛れもなくレンだった。
一家無理心中のあった今や、リンにとって唯一人の肉親。
同じ日に同じ両親から産まれた兄であり弟であり、この三年間のリンの拠り代。
あの運命の日以来、文のやり取りだけで会うことはなかったけれど、リンにはすぐに分かった。
別れた日から随分と成長したようで、幼かった面影は少年...夜明けの夢 【第二章】 陸:触れたのは希望か (がくリン)
モル
要らぬ焦燥ばかりで、数日が経った。
その間にリンは二人の客をとり、八度レンからの手軽を読み返した。
しかし嵐の前の静けさか、日常は何一つ変わらない。
陰間茶屋から人が逃げ出しただの、客が買っただのという噂も耳に入ってこなかった。
所在の知らないレンに文など返せる筈もなければ、レンから新しく何か寄越し...夜明けの夢 【第二章】 伍:予感 (がくリン)
モル
神威はそれ以上をリンに聞くことはなく、自分の身の回りの些細な出来事や、廓に来るまでに見たという大衆について語った。
そして結局、その日も二人は、前回と同じようにただ話をして眠ったのだった。
「よく捉まえたもんだね」
見送りに出た楼主が、去っていく神威の後姿に向かったまま言う。
――先日はすぐに他の客...夜明けの夢 【第二章】 肆:あらゆる転機 (がくリン)
モル
昔から、歌うことは好きだった。
廓へ来てから教わった歌は全て客の興の為のものだったが、それでも他のどんな稽古よりも楽しかった。
――男のことなど何も知らずにいたあの頃が最も幸せだというのは、至極当然のことでもあるが。
あの運命の日、リンが遊郭に売られる前まではレンと二人でよく歌っていたし、両親にもあ...夜明けの夢 【第二章】 参:過去回廊 (がくリン)
モル
リンの問に、神威は少しばかり苦笑した。
こちらが話をはぐらかそうとしたことが分かったのだろうと、リンは直感する――なんて頭のいいヒトだ。
けれど彼は敢えてそれ以上の追及はせずに、さらりと答を口にした。
「決まっているだろう、リンを買いに来たのだ」
何か深い理由や言い訳でもあるのだろうかと期待をしてい...夜明けの夢 【第二章】 弐:理屈と理由 (がくリン)
モル
それは、もう期待をするのはやめようとリンが思い始めた頃だった。
――あの日から幾日経ったかなど、五日を過ぎた時に数えるのを止めてしまった。
あ、と思ったのは本当にただの偶然だ。
「お客よ、リン」
その暫く後には見世から呼ばれ、はっきりとは分からなかった彼の姿が自分の気のせいではなかったことをリンは願...夜明けの夢 【第二章】 壱:再会の音頭は静かに (がくリン)
モル
リンが神威と出会ってから三日が経った。
あれからこの街で男の姿を見掛けることもなく、何かしら話を聞く訳でもない。
勿論、馴染みの客でも惚れ込んで傾倒でもしていなければ、週に一度来るか程度であったりする。
それでもリンにとってはこの三日が長く、神威が来ないことに安堵しつつもまた心内に少しの寂しさを感じ...夜明けの夢 【第二章】 序:回転する音 (がくリン)
モル
気付けば眠っていたらしい。
リンは頭を上げると客の姿を確認しようとしたが、けれどそれよりも自分の格好に違和感を覚えて見下ろしてみる。
先ず思うのは、何故自分は襖などに体を預けているのだろうかということだ。
寝相が悪過ぎたにしても、布団から出ているでは済まない程度である。
それでもこの体勢で掛け布団は...夜明けの夢 【第一章】 漆:分かれ路 (がくリン)
モル
リンは神威の言葉に目を見開く――帰ってくれと頼んだ筈なのだ、それが。
「何故…」
元々、リンが何を言わなくとも神威は遊女など相手にしない性格だろうと思っていたのに。
理解出来ない答に戸惑いを隠せないまま問うと、神威はリンに微笑んだ。
そうして、目線を少し逸らしながらも落ちたリンの衣服を肩にかけてから...夜明けの夢 【第一章】 陸:夜の終わり (がくリン)
モル
神威は一言も発することなくリンを見ていた。
リンの纏っていた着物は全てするりとその細身を滑り落ち、足元で積み上がっている。
勿論、リンとてまだ凹凸もない自分の軆に自信がある訳ではないが、それでもこれは“そういった行為”を表すものではない。
「リン、君は…」
暫く落ちていた沈黙を、神威が切り裂く。
そ...夜明けの夢 【第一章】 伍:清廉潔白の君 (がくリン)
モル
そう、あっという間だった――たとえ彼といえど、これまでやってきた仕事と何ら変わりはない。
所詮彼らも花街に女を買いに来る道楽なのだ。
リンは自身に言い聞かせ、用意が整ったらしいとの耳打ちに対して頷いた。
さて勿論のことだが、少佐は姐の所へと連れていかなければならない。しかし、この男はどうしよう。
打...夜明けの夢 【第一章】 肆:相反する欲 (がくリン)
モル
などと思っていれば、現実に引き戻す残酷な声がする。
「いやはや、初の花街で斯様な少女を口説くとは…やるなあ、少尉」
今日の上客である少佐だった。
その言葉に、リンは一瞬の淡い期待を自分で捨てる。
やはり、彼らにとって彼女はただの“遊女”であり“それ以下”でもなければ、まして“それ以上”になどなり得る...夜明けの夢 【第一章】 参:戸惑う夢 (がくリン)
モル
「そういえば、君は今まで見たことがないな…」
俯きがちになっていたリンに、少佐が言った。
姐の客にも拘らずリンも彼のことを知らなかったのだから、この三ヶ月程の間に此処へ通うようになったのか――いや、遣手の慌て振りからすれば今日が初会なのかもしれないが。
「そうですねえ…少佐さんは、よく通っていらっし...夜明けの夢 【第一章】 弐:惹かれること (がくリン)
モル
気付けばもう、朝五ツ時だった。
大抵の者が朝四ツ時には起き始めるというのに、完全な寝坊である。
勿論、昼見世は昼九ツ時から始まるのでまだ間に合う時間ではあったのだが、この時間は彼女たちにとって貴重な自由時間だ。
リンも、昨日会えなかった姐に会っておきたいと思っていた。
昼見世なんて客足もなく閑散とし...夜明けの夢 【第一章】 壱:運命は廻る (がくリン)
モル
『かごめ かごめ
籠の中の鳥は
いついつ出遣る
夜明けの晩に――』
さて、あの唄の続きは何だっただろう?
リンは紅い梁天井を見上げながら、ふと考えた。
夢か現――と言っても、最近では夢などパタリと見なくなってしまったのだが――の境界で淡い意識の中、自問する。
どうして今更こんなに懐かしい唄を思...夜明けの夢 【第一章】 序:嵐の前の静けさ (がくリン)
モル
「夢みることり」を挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [5](最終回)
マルディンが目覚めたとき、すでに部屋の中は真っ暗であった。
体に張り付く汗の感覚と、何かが抜けたような虚脱感。
夜か、それとも早朝か。寝台から起き上がり、窓のカーテンを引いた。
外を見ると、うっすらと雪が降り...「夢みることり」を挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [5] (最終回)
wanita
「夢みることり」を使ってファンタジー小説を書いてみた [4]
「おいしかったね、あのお茶」
「ああ。マルディン用のも、楽しみだな」
蛍屋の印の押された、茶色の紙袋を抱えて、二人は街の石畳をあるいてゆく。
緑色の外灯が、道に光を落として、ぼんやりと光る。
「って、雪、降ってないか?!」
「うわ。本...「夢みることり」を挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [4]
wanita
「夢見ることり」を挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [3]
……アークのさした看板は、
『蛍屋』
「何の店?」
アークは答えずに、その店の木戸と押した。
きぃっときしんだ音を立てて中に入ると、ろうそくの炎の色のような暖色の光が二人を包んだ。
「いらっしゃい」
五十がらみの男の声が、店...「夢みることり」を挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [3]
wanita
「夢みることり」を挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [2]
* *
「いよっしゃ! 今日は臨時休講だな! 街に行ってもいいか、マルディン?」
「こらアーク! 不謹慎でしょ!」
憎まれ口を叩くアークを、リリスがたしなめる。
「これぞ鬼の霍乱って奴だな! いや~初めて見た...「夢みることり」を挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [2]
wanita
『夢みることり』を使ってファンタジー小説を書いてみた [1]
大きな湖に、豊かな土地。
この国が、ルディと呼ばれる怪物に悩まされ始めてから随分経つ。
四十年だった。
この国は、真ん中に大きな湖を抱えており、国境を接する外縁は、はるかな山々に囲まれていた。春になると雪解け水が豊かな水を湖に供給...夢みることりを挿入歌に使ってファンタジー小説を書いてみた [1]
wanita
「お前が遊里通いとは、変われば変わるもんだな」
気紛れで我が家に顔を出していた友人が、からかうように言った。
縁側に陣取って扇子を玩びながら、その目は桔梗を眺めている。私は平素通りそれに構うことなく文机に向かう。
「そんな艶めいた話でもないさ」
答えると、益々愉快そうに笑われる。くつくつと含み...ことりの泡夢 参 (楽鈴)
飛色
それから私は、日を置かず伊鈴の元を訪れるようになった。
始めは意志を伝えるのさえ苦難だったのも、時を重ねる内に互いの感情を読み取る術を身に付けた。
今の彼女は、初めて会った時とは比べ物にならない位に明るい。私が見ていないとどこかに行ってしまいそうな程元気が有り余っていた。
塾の営みの間に、伊...ことりの泡夢 弐 (楽鈴)
飛色
祭の音色は既に遠く
凍てつく寒風に身を震わせて
儚いこえで 私の名を呼ぶ
そこで見たのは、緋の色に鮮やかな金の――
『ことりの泡夢』
飛脚が来たのは三日前の朝だった。
父の元を離れたのが十五の時。身を移したのは母親の故郷・京の都。今はここで母と二人、小さな塾を営んでいる。
江...ことりの泡夢 壱 (楽鈴)
飛色