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第三章 東京 パート6
寺本の話が終わると、藍原は凝り固まった疲労のように重たい吐息をその場に漏らした。寺本はなんと言ったか。ミルドガルド。異世界から来た少女。そんな話はSF小説の中だけの出来事だと思っていたのに。まさか、すぐにその事実を信じられる訳もない。
「二人は明後日の便で札幌に向かう。そ...小説版 South North Story 46
レイジ
第三章 東京 パート5
とりあえず、練習室に戻るか。
鏡との通話を終えた寺本はそう判断すると、部室棟の中央部分に用意されている階段を地下に向けて歩き出した。少なくとも今日と明日はリンとリーンの二人をどこかに宿泊させなければならない。流石に男性の自宅に泊める訳には行かないが、と考えながら寺本が練習...小説版 South North Story 45
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第三章 東京 パート4
「今、レンは何処にいるの?」
暫くしてからリーンから受け取ったハンカチで涙を拭き終えたリンは、一つ深呼吸をするとようやく落ち着きを取り戻した様子で寺本に向かってそう言った。レンがこの世界にいる。あたしはレンにもう一度逢える。そう考えただけで心臓が飛び跳ねそうなくらい高鳴っ...小説版 South North Story 44
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第三章 東京 パート3
「藤田は?」
いつもの部室、普段から活動している部室棟地下二階の音楽練習室で、沼田英司の僅かに苛立ったような声が響いた。予定していた集合時間を迎えて、唯一姿を見せていない人物が藤田であったのである。
「そろそろ来ると思いますが。」
呆れたような口調でそう答えたのは寺本...小説版 South North Story 43
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第三章 東京 パート2
立英大学を訪れた殆どの人間が、まずその正門から広がる景観の良さに瞳を奪われることになる。赤煉瓦造りの正門から見える立英大学本館は青々としたつたの絡まる二層立て赤煉瓦造りの、明治期に建設された建造物であり、当時の気風を現代に伝える建造物として文化遺産としても評価の高い建物であ...小説版 South North Story 42
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第三章 東京 パート1
「いらっしゃいませ。」
日本全国、何処にでもあるようなコンビニの一つに入店した藤田哲也はしかし、その声を耳にして天にも昇るような気分を味わうことになった。その声をかけた、短めに髪をそろえた若い女性店員はその利発そうな瞳を和ませて、藤田に対して笑いかける。
もう死んでもい...小説版 South North Story 41
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第二章 ミルドガルド1805 パート22
「そこまで。」
凛としたアクの言葉がビレッジに響き渡ったのは、ハクが詠唱を始めた直後のことであった。直後に、事態を見守っていたメイコとウェッジが向き直り、剣に手をかける。
「どうしてここに・・。」
瞬時に剣を抜けるように身構えたメイコは、アクに向かっ...小説版 South North Story 40
レイジ
第二章 ミルドガルド1805 パート21
それは、迷いの森以上に不思議な場所であった。
目の前に見えるのはまるで村の入り口をあらわす門扉のように植えられた二本の大イチョウ。その大イチョウの奥に見えるのは赤煉瓦作りの聖堂であった。横に長く造られているその聖堂は相当数の部屋が用意されているらしい。こ...小説版 South North Story 39
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第二章 ミルドガルド1805 パート20
翌日、普段よりも早い時間に目を覚ましたハクは、なんとなく落ち着かないという様子でその均整のとれた肢体を不安そうに捩じらせた。今日、ビレッジに戻る。もう二度と戻ることは無いだろうと思っていたビレッジに。あの場所での生活はあたしにとっては悪夢のような出来事だっ...小説版 South North Story 38
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第二章 ミルドガルド1805 パート19
グリーンシティ。
かつて黄の国との戦争に敗れ、建築物が破壊され、民衆が虐殺の憂き目にあったその都市は四年の歳月を経過してようやく本来の文化都市としての性格と落ち着きを取り戻しつつあった。戦争の痛手と悲嘆がたった四年の歳月で消え去る訳もなかったが、表面上の...小説版 South North Story 37
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第二章 ミルドガルド1805 パート18
静かな夜であった。物音はリンとハクが踏みしめる土の擦れる様な音と、周囲の叢で嘶く蟋蟀が鳴く声だけである。場所はロックバード邸の裏庭であった。この場所ならば未だ眠りにつく気配も無い街の明かりに邪魔されることは無い。今宵は月もなく、ただ星の瞬きだけがリンとハ...小説版 South North Story 36
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第二章 ミルドガルド1805 パート17
「うぁあ、美味しそう。」
リンが目の前に用意された食事を見て、その様に声を上げた。その後結局、リンの一行はロックバード邸に一晩の宿を借りることにしたのである。ロックバード邸は流石かつてのルワール王国の居城であっただけあり、その敷地は相当の広さを誇っている...小説版 South North Story 35
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第二章 ミルドガルド1805 パート16
「せいやぁっ!」
可憐な少女の声が広い平原の只中に響き渡った。どうやら一人、剣の素振りをしている様子であった。小麦色の髪を潔くポニーテールにした少女はもう一度剣を振り上げて、そして鋭く振り下ろす。剣が風を切る音が周囲に響いた。その素振りだけでも、見るもの...小説版 South North Story 34
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第二章 ミルドガルド1805 パート15
作者註:この回は冒頭から「大人のシーン」が展開されています。ある程度抑えたつもりですが、苦手な方はご注意ください。それでもおkな方はどうぞ。(消されなきゃいいけど^^;)
汗ばんだ身体に、茉莉花に似た心地の良い香りがふわりと馴染む。昨晩の行為を思い起こしな...小説版 South North Story 33
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第二章 ミルドガルド1805 パート14
「結論から先に言うわ。ここにいる全員で迷いの森に向かうの。」
ウェッジの表情を一瞥した後、ルカは全員に向かってそう言った。お互いの顔を見合わせ、手を叩いて喜んだのはリンとリーン、困惑した表情を見せたのはそれ以外の三人であった。
「あたしも行くのですか?...小説版 South North Story 32
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第二章 ミルドガルド1805 パート13
「とりあえず、何があったのかを説明しなければならないわね。」
ウェッジがさりげなくハクの隣の席に腰掛けたことを確認してから、ルカはその様に言葉を切り出した。確かウェッジはリンの正体を知らないはずだけど、と考えながら、慎重な口調でハクに向かってこう訊ねた。...小説版 South North Story 31
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第二章 ミルドガルド1805 パート11
レンにもう一度逢える?
リーンの声が海岸に響き渡り、その声が波打ち際の潮の音に紛れて消えていった後、リンはその様に考えてその蒼く透き通る瞳をひとつ、瞬きさせた。潮風が吹き、リンとリーンの黄金の髪を綺麗に靡かせる。
「本当に?」
リンは暫くしてから、リ...小説版 South North Story 30
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第二章 ミルドガルド1805 パート11
やっぱり、あたしがいた時代とは随分と様子が違うな。
無言のままで歩みを続けるリンの背中を追いながら、リーンはその様なことを考えた。リーンが生まれ、そして高校卒業まで住んでいた自宅は影も形もないし、大通りを走る路面列車の姿ももちろん見えない。建物は平屋ばか...小説版 South North Story 29
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第二章 ミルドガルド1805 パート10
一体、リン様はどのような生活を営んでいるのだろうか。
一歩一歩近づく、ルータオで一番巨大で、そして最も美しい建築物であるルータオ修道院を目前としながら、メイコはそのようなことを考えた。リン様にレンの最後の言葉を伝え、そして謝罪したい。その想いだけでゴール...小説版 South North Story 28
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第二章 ミルドガルド1805 パート9
翌日、まだ朝日も出ていない早朝にルカは目を覚まし、もぞもぞとベッドから起き上がると日の出前の薄明かりを頼りに宿の寝室に用意されている化粧台へと赴き、そして丁寧に自身の長い桃色の髪を梳き始めた。軽く跳ねている髪を櫛で押さえつけ終わると続けてルカは軽く化粧を施す...小説版 South North Story 27
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第二章 ミルドガルド1805 パート8
メイコとアレク、そしてリーンがテーブルを挟んで向かい合うように座ると、メイコが状況を整理するわ、と前置きをして一通りの話を語りだした。即ち、リンが生きていること。今リンはルータオで静かに暮らしていること。そしてリーンが二百年後の未来から来た人物であるというこ...小説版 South North Story 26
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第二章 ミルドガルド1805 パート7
日はすっかりと落ちて夜の帳がゴールデンシティを包みこんだ。今日は満月に近い日なので、夜と言ってもそれなりに明るく感じる。街のどこかに潜んでいるのだろう、静かにコオロギの羽音がメイコの耳に届いた。総督府を出たメイコの隣を歩くのはメイコの麻袋を担いだままのアレク...小説版 South North Story 25
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第二章 ミルドガルド2010 パート6
日が陰り、夕闇がゴールデンシティを包み込み始める時刻、長旅に耐えられる様にと頑丈な縫製がなされている牛皮のベストを着込んだメイコは、気合を込める様に左右の襟を両手で掴むと、身体を引き締める様にそれを軽く引き絞った。そのまま、私室の窓から広がる景色を視界...小説版 South North Story 24
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第二章 ミルドガルド2010 パート5
「ルカ殿、ルータオにはすぐにご出立されますか?」
ルカとリーンが飲み残した紅茶を無念という表情そのままで処分し終えると、メイコはルカに向かってその様に訊ねた。まだ午後の早い時間だが、今から出発してもルータオ街道沿いにある次の宿場町には間に合わない計算にな...小説版 South North Story 23
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第二章 ミルドガルド1805 パート4
「苦い。」
メイコが丹精込めて淹れた紅茶に対するリーンの一言目はその言葉であった。
「私が淹れれば良かったかしら。」
続けて、ルカがその様に評価を下す。その言葉に後悔している気配を感じたメイコは、恐縮しきりという様子で肩を縮めると恥ずかしそうな口調で...小説版 South North Story 22
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第二章 ミルドガルド1805 パート3
どうしてそのような寂しげな表情をしたのかが判断できないまま、リーンはルカに促される様にして立ち上がるとリン女王の墓石を神妙な瞳で見つめ直した。そして、歴史書で読み込んだリン女王の最後の姿を描写した文面を思い起こす。当時黄の国で絶大な権力を誇った齢14歳の少...小説版 South North Story 21
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第二章 ミルドガルド1805 パート2
一体、何が起こったのだろう。ぼんやりとした思考のままでリーンはその様に考えて、目の前でまるで大地がひっくり返ったかのような驚きの瞳でリーンを見つめている桃色の髪を持つ女性の表情を視界に収めた。
「あたしは、ルカよ。」
何かに緊張しているのだろうか。軽く...小説版 South North Story ⑳
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第二章 ミルドガルド1805 パート1
もう、四年も経ったのね。
丁度一年ぶりに訪れた旧黄の国の王都、四年前にカイト皇帝によりゴールデンシティと改名されたその街に訪れたのは、桃色の髪を持つ妙齢の女性、ルカであった。手にしたバスケットの中にはハルジオンの花束と、丹精込めて焼き上げられたブリオッシ...小説版 South North Story ⑲
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第一章 ミルドガルド2010 パート17
ミルドガルドには現代日本と同様に、四月の終わりから五月の頭にかけて一週間程度の連休期間が存在していた。メイが迷いの森の探索を目的として指定した日はその春の連休の初日のことである。カイルが運転する車の後部座席に腰かけたリーンは、隣に座るハクリと一緒に流れる...小説版 South North Story ⑱
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第一章 ミルドガルド2010 パート16
セントパウロ大学前駅から地下鉄南北線に乗車したカイルは、それから半時程度が経過した頃にグリーンシティ駅に降り立つことになった。グリーンシティ駅は文化都市グリーンシティを象徴するような芸術性の高い建物になっている。現代建築特有の、近未来をにおわせる明るい配...小説版 South North Story ⑰
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