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もうひとつのエピローグ
『もしも生まれ変われるのならば、その時はまた遊んでね』
小瓶に込められた羊皮紙。それには良く似た字で同じ願いが書かれていて、片割れの生真面目さに苦笑する。
「もっと現実的な事を書けばいいのに」
だけど、言い伝えそのものが何とも信じ難い話だ。奇跡を望むくらいが丁度良いのか...蒲公英が紡ぐ物語 第64話
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エピローグ 綿毛の行く先
打ち寄せる波の音が心地良い。水平線が澄んだ空と輝く海を分けて、同じ青でも異なる色合いを見せている。
海岸からゆっくり眺めるのはいつ以来だろう。独りぼっちになってから足が遠のいて、いつしか高い王宮から見下ろすのが当たり前だった。
もしかしたら、無意識の内に避けていたの...蒲公英が紡ぐ物語 第63話
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緑ノ革命
浅葱色の髪が歩く度に揺れ、すれ違う兵士や召使が恭しく迎え入れる。高い足音を立てて緑の王宮を進むのは、国王の妹ミク・エルフェン。慣れ親しんだ家に到着した彼女は、早速兄の元へ向かっていた。
本音を言えば旅で疲れた体を休めてから報告をしたいが、何分兄は仕事に忙殺される身である。時間を割く事...蒲公英が紡ぐ物語 第62話
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獅子の花
午後三時を伝える教会の鐘。定刻を知らせるに過ぎない音だが、墓地では鎮魂の音色として響く。
歴代の王族の墓が並ぶ場所を通り過ぎ、アレンとリリィは墓地の片隅へ向かう。リンと近衛兵隊は眠っているのは、まるで他の墓から追いやられたような一角である。周りと比べて明らかに手入れがされていない、落...蒲公英が紡ぐ物語 第61話
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金の双獣
「……ちゃん! 兄ちゃん!」
まどろみの中で声をかけられ、青年は目を覚ました。寝ぼけた頭を掻きながら体を起こし、荷馬車に乗せて貰っていたのを思い出す。野盗から馬をくすねて、もとい拝借した事も。
御者台へ振り返ると、穏やかに笑っている男性が見えた。彼の向こう側には開かれた門。目的地に到...蒲公英が紡ぐ物語 第60話
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壊れた箱庭 新たな一歩
割れるような歓声が広場を揺るがす。群衆は『悪ノ王子』の斬首に狂喜の叫びを上げ、圧政の終わりと新時代の始まりに熱狂していた。
首を晒せ、死体を吊るせと一部の国民が吠える。殺された王子を、リンを辱めようとする人々に、レンは嫌悪と憎悪が湧いた。
気持ち悪い。人が死んだのに笑...蒲公英が紡ぐ物語 第59話
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悪ノ散華
『悪ノ王子』の処刑にざわめく黄の国王都。広場では準備の段階で見物客が集まっていた。断頭台が運び出された際に畏怖の声が上がるも、見物客は興味と期待を隠しきれない。
王子は粛清した者達と同様の方法で殺されるのだと。
執行は午後三時。刃が落とされる瞬間を待ちわびる民衆は、異様な熱気に包まれ...蒲公英が紡ぐ物語 第58話
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種を撒く者
「……王子は、そこまでの覚悟を」
話を聞き終え、メイコは沈痛な面持ちで呟く。ミクは病人のように青ざめ、信じられないと首を振った。
「嘘。嘘よ……」
話を受け入れられない様子の彼女へ、リンは憐れみの視線を送る。緑の兵が略奪をしていた事とレンがカイト王子を殺していないと知り、緑の王女は...蒲公英が紡ぐ物語 第57話
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悪ノ覚悟 正義ノ傲慢
どれくらい経ったのかな。
鉄格子をぼんやりと眺めて、リンはふと思う。閉ざされた地下牢では外の様子も分からない。格子付きの窓が天井近くにあるので、精々昼か夜かの区別が付く程度。就寝と起床の回数もでたらめになってしまい、時間の感覚はとっくに消えてしまった。
『悪ノ王子』の惨め...蒲公英が紡ぐ物語 第56話
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翡翠が望む明日
木々が生い茂る森の中、少年は目の前で蹲る少女に訊ねた。
「どうして隠しちゃうの?」
少女が頭を押さえて涙ぐむ。
「……皆と違うから。緑髪じゃなくて、変だから」
少年は知っていた。少女が必死で隠そうとする髪の色を。それはこの国ではまず見ない、草木に映える金髪だ。少年自身、緑髪...蒲公英が紡ぐ物語 第55話
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巡る因果
自身の悲鳴が耳に届き、リリィは目を覚ました。見慣れない天井が真っ先に映る。瞬いた拍子に涙が零れて、泣きながら寝ていた事に気付いた。涙を拭いながら身を起こす。
ここは王都外れに建っていた空き小屋。焼け野原となった貧民街の方へ逃げる最中に偶然見つけた廃屋だ。辺りに人気は無く、一時的に身を...蒲公英が紡ぐ物語 第54話
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百合の傷
大陸を二分する程広大な、北から南に伸びる森。自然の国境線から少々離れた場所に町があった。そこは現在の地図に記されていない、村より少し大きい程度の田舎町。草木が多い牧歌的な風景に風が吹き抜けて、立ち並ぶ家に木々の匂いを運んだ。
屋敷の庭で爽やかな風を一身に浴びているのは、金髪の少女と緑...蒲公英が紡ぐ物語 第53話
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貫き通す嘘
浅い呼吸を繰り返してリリィは駆ける。長い金髪に軍服、剣と同じ長さの棒を腰に差した、かなり目立つ格好だったが、人気の無い道には彼女しかいなかった。
「流石にここら辺にはいない、か……」
息を整えながら周囲を見渡す。速度は落としたものの、足は動かし続けている。
王宮を脱出した直後は革...蒲公英が紡ぐ物語 第52話
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変わりゆくもの
目の前の敵兵が傾いで視界が開ける。手近の一群をかろうじて斬り捨てたトニオは、がっくりと膝を付いて項垂れた。息は上がり、鼓動が耳を打つ。双剣の一本は半ばで折れ、もう一本には亀裂が走っていた。
ここまでか……と自身の限界を悟り、重い頭を持ち上げる。周囲は血の海だ。王宮兵士と革命軍兵...蒲公英が紡ぐ物語 第51話
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傲慢の先
女傑二人が激突する頃。
レンは逃げも隠れもせず、一人静かに自室の執務椅子に座っていた。剣は手元から離れた壁に立てかけているので丸腰。体術は心得ているが、敵に囲まれれば抵抗の甲斐無く捕えられる。それを充分認識した上で、革命軍が王子の許へ来るのを待っていた。
「やっと終わるんだな」
圧政...蒲公英が紡ぐ物語 第50話
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黄の守り手 赤の騎士
メイコを先頭に革命軍は王宮を進む。庭園から追い縋って来た王宮兵は全員倒したものの、共に突入した兵の半分以上が犠牲になる程の被害を受けた。メイコとミクを含めた侵入者達は剣を握り、周囲を警戒しながら足を動かす。
落ち着きない様子であちこちへ視線を送り、ミクは張り詰めた表情で囁...蒲公英が紡ぐ物語 第49話
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王子の守護者
「来たか……」
反乱軍の先鋒が到達するまで間も無く。見張りからの報告を受け、アルは武器を握る手に力を込める。斧と槍が複合された長柄武器が僅かに揺れ動き、石突きが地面を撫でた。
「いよいよ、か」
両手に剣を携えたトニオが重く答える。近衛兵隊も含めた残存兵は庭園に集結し、息が詰まるよ...蒲公英が紡ぐ物語 第48話
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落とされた幕
夜が明けて太陽が姿を現し、空に朝日が昇る。新しい一日を迎えた王都はざわめきが生まれているものの、街は活気付いていなかった。店売りの威勢の良い声は響かず、家の前に出ている者は不安や緊迫を浮かべて王宮の方角を眺める。
戦いは今日で終わる。王都の住人は願望が多分に混ざった確信を胸に、こ...蒲公英が紡ぐ物語 第47話
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闇の真実
ほとんどの住人が寝静まり、ひっそりと静まり返った真夜中の王都。一般人なら余程の事情が無ければ外出をしない時刻に、一つの人影が暗闇に紛れて移動していた。足音を潜めて夜道を進み、やがてもう一つの人影と合流を果たす。
「すまない。待たせた」
「遅ぇぞ。捕まっちまったかと思った」
夜影に落ち...蒲公英が紡ぐ物語 第46話
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小さな王子様
国王夫妻が崩御し、王子の後見人となった宰相が権力を握ると、周りの環境に明らかな変化が訪れた。異常と言っても過言ではないとリリィは述べる。
「王様がいなくなったのを境にして、似たような境遇の人が増えていったんだよ」
上級貴族達が代わりに政務を行うようになってから、貧民街や道端の住人...蒲公英が紡ぐ物語 第45話
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辿る足跡
「来たね。やっぱ」
来ないはずが無い。リリィは座ったまま呟き、使用人室に現れたリンに顔を向ける。
「あれからちょっと迷ったよ。本当に聞いてもいいのかって」
リンは席に近づきながら返す。そもそも、得体が知れないのは自分も同じ。リリィが接している後輩メイドは、レン王子の姉であり黄の国王女...蒲公英が紡ぐ物語 第44話
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黄昏の攻防
結構遅くなっちゃたな……。
空は夕焼け。地面に伸びる影は長い。思ったよりも時間を使っていたのを認識し、リンは小走りに切り替えて帰路を急ぐ。早く帰らないとレンやリリィが心配する。
建物が並ぶ大通りには路地が多く、たまに近道として使っている場所もある。リンは目印の建物の角を曲がり、薄...蒲公英が紡ぐ物語 第43話
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崩壊の足音
武装した民衆が蜂起。その知らせは程なくして王宮へ届き、やがて黄の国正規軍と反乱軍は衝突する事になった。以前から発生していた騎士団と民衆との小競り合いとは違い、反乱軍はれっきとした組織として謀反を起こした。
悪ノ王子への不平不満を高めていた国民は反乱軍を革命軍と呼んで支持。正規軍は物...蒲公英が紡ぐ物語 第42話
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戦う事 守る事
「勿論謝礼は払います」
ややあってから静寂を破ったのはミク。それくらいは当然だという態度を表に出して続ける。
「望みであれば、革命後に王宮へ戻れるよう取り計らいましょう。そもそも、貴女は田舎の自警団などで納まるべき人間ではありません」
ミク王女は褒めているつもりなのだろう。しか...蒲公英が紡ぐ物語 第41話
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眠る獅子
黄の国王都より遠く南西。緑の国へと続く街道から外れた位置にある小さな町。大陸南を走る主要街道から取り残されたような田舎町の一角で、栗色の髪の女性が木剣を振るう若者達を眺めていた。時に遅れている者を指導し、時に自らが構えを取って手本を見せる。
不慣れな様子の若者達に対し、鞘付きの剣を持...蒲公英が紡ぐ物語 第40話
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分かれる想い
青の国との戦争と貴族の粛清の所業は、国民にレン王子への不満と怒りを芽生えさせた。
その情勢は噂となって緑の国に流れ、王宮では黄の国の話で持ちきりだった。
東側は最近穏やかじゃない。青の国に侵攻したが負け続き。黄の国民はレン王子を『悪ノ王子』と呼んでいる。
噂を耳にする度、ミクは...蒲公英が紡ぐ物語 第39話
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偽りの忠誠
黄の国騎士団が青の国へ出立して一カ月。
落ちぶれたとはいえ、一級品の装備に身を包んだ多勢の騎士団は瞬く間に海向こうの国を侵攻した。第三王子カイトが暗殺された事件によって混乱する青の国は勃発した戦争への対応が遅れ、各地を占領される事になった。
元々軍事力に劣り、後手に回ってしまった...蒲公英が紡ぐ物語 第38話
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姉と弟
外から響く音が徐々に小さくなる。体が揺らされ、リンはふと我に返った。
ああ。着いたんだ……。
王都に到着したと知らせる声がする。なら降りないといけない。そして早く王宮へ帰らないと。
近いはずの御者の声を遠くに聞き、リンは夢心地のままのろのろと馬車を降りる。後ろの乗客から文句を言われた...蒲公英が紡ぐ物語 第37話
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断罪の悪夢
立っているのか横たわっているのかも分からない。進んでいるのか止まっているのかも不確かな感覚。
これは夢だ。現実じゃない。
気が狂いそうな程の静寂が満ちた暗闇。果てなき闇の中。昨日も同じ夢を見た。だからこそ変に落ち着いていて、早く醒めろと強く願う。
「人殺し」
糾弾の声に振り返る...蒲公英が紡ぐ物語 第36話
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断ち切りし因縁
「何事ですかな。王子殿下」
白々しい挨拶を述べるスティーブに舌打ちを堪え、レンは玉座から宰相を見やる。慇懃無礼の態度が酷く癪に障るのは、故意に火災を発生させておきながら王宮で安穏な生活を貪っていた事実を知ったからか。
爪が食い込ませて拳を固め、レンは腹の底に渦巻く感情を抑えつけ...蒲公英が紡ぐ物語 第35話
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