周雷文吾の投稿作品一覧
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extra.
「ね、奏」
「あれ、早かったね、未来。なに?」
「さっき、あの女優さんに言い寄られてたでしょ」
「え、なにそれ。誰のこと?」
「あ。しらばっくれてもムダだからね」
「いやいや、しらばっくれてるわけじゃないよ。そもそも誰からも言い寄られてないし」
「嘘。さっき若い子に『よろしくお願いしま...Prhythmatic おまけ
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Extra.
あれから五年の月日が経った。
白磁の聖都を遠くに望むド田舎出身の若造の――しかし、二十一世紀の日本という、皇歴五千年の現代とは比べ物にならないほどに発達した知識を持っている――僕と美紅の二人組は、目の前の純白の巨大な扉を呆然と見上げた。
両開きの扉は高さが五メートル、横は三メート...ローリンガール おまけ
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◇◇◇◇
心地よい微睡みが、緩やかに晴れていく。
「ん、んん……」
が、自らの心はまだその微睡みと夢に浸っていたくて、そこになんとか戻れないかと身をよじり、ベッドのシーツに脚を絡める。
……。
あれは……夢、だ。
随分昔、まだアレックスに拾われて数年しか経っていない頃の事。
あの頃はア...針降る都市のモノクロ少女 おまけ 後半
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18.(perhaps……)
わたしは紅茶の載ったトレーを左手に、右手で執務室の扉をそっと開けて、部屋の中に入る。
「失礼……します」
「ん? ああ、リンか。すまんな」
マスターは執務室のデスクで書類をにらみつけながら、頭をかりかりと掻いている。
わたしはトレーをデスクの端に置いて、マスターの...針降る都市のモノクロ少女 おまけ 前半
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解説編
わざわざここまでお読み下さり、ありがとうございます。
さて、早速解説に入りましょう。
●物語構造
これはもうわかっていることだとは思います。
「イチオシ独立戦争」→「アイマイ独立宣言」
という続きかと思わせておいて……
→「イチオシ独立戦争」
→「アイマイ独立宣言」
という同時進行だった、と...アイマイ独立宣言 解説
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Extra
今日、僕らはようやく「ソルコタ民主主義共和国」として独立する。
国際連合ソルコタ暫定行政機構、UNTASの活動は、結局は三年四ヶ月もの期間に及んだ。
波打つ緑と黄色、そしてギザギザの青と橙色が交差する国旗は、カタ族とコダーラ族の伝統模様をあしらったものだった。
三年四ヶ月の間、僕...アイマイ独立宣言 おまけ
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ex.
彼は誰よりも早く店についてスーツから制服に着替えると、少し落ちつかなげに深呼吸をした。
――平常心、平常心。
――変に不安をあおらないような態度で――。
ガチャリ、と音を立てて扉が開く。
彼と同い年くらいの、二十代後半の女性が入ってきた。
「おはようございます、みくさん」
「あ……...水箱 おまけ
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Extra 数年後:某日
今日は、彼女がやってくる。
私のただ一人の……かけがえのない親友が。
私は幼子を胸に抱いて、わが家とも言える旅館の玄関で彼女がやってくるのを待っていた。
玄関の外に見える日本庭園には、うららかな陽光が降り注いでいて、今日の天候が快晴なのだと教えてくれている。
腕の...私とジュリエット おまけ
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Extra.
王宮の広間で、典雅な紅の衣をまとった女性が、二人の幼子をあやしている。
四、五才ほどの男の子と女の子だ。二人とも、上質な布地の織物を着ていた。二人は、この国の王子と姫なのだ。
「――これで、お話はしまいじゃ。めでたしめでたし、というわけじゃな」
長い話を語り終え、女性がそう言う。...焔姫 おまけ
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第八章 05 後編
「もう少し、弱音を吐いてもよいか……?」
「ええ。私でよければ……いくらでも」
焔姫を安心させようと、男はほほ笑んで見せる。焔姫は、不安そうにぎゅっと手を握り返してきた。
「これまで、やらなければならぬと思って戦をし、戦いを繰り返してきた。じゃが……余は戦などしたくはなかった。...焔姫 38 後編
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第四章 05 後編
「しかし……それほど劣勢だったのであれば、犠牲も多かったのではありませんか?」
男はそこで、ようやくそれを聞く事が出来た。
焔姫が一番触れられたくないと思っている話題。だがそれこそが、焔姫の考えを一変させる事が出来る。
「そりゃあそうだ。だけど、姫様がいなかったらそんなもんじ...焔姫 22 後編
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突然、目の前に大勢の観客が現れた。
『……え?』
そんなアタシの声をヘッドセットのマイクが拾って、ステージのおっきなアンプから響く。
それがどういうことか理解できなかった。
アタシが――「アタシ」じゃなくて、アタシが――ステージに立っているなんていうありえない状況に、アタシは混乱して、頭が真...39 後半
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Extra
それから少しして、私は陸上部のみんなのところに戻ってきた。
ついさっきの唇の感触を思い出しちゃって、こらえられなくてほほがゆるんじゃう。
「あ、初音おかえりー」
「た、ただいま」
みんなの視線すら意味ありげに見えちゃって、私はなんとか平静を装おうとした。
「初音。さっき一緒にいた男...茜コントラスト おまけ
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7.
高松さんの不安をよそに、バンドの再結成ライブは大盛況に終わった。
それからも、高松さんの体力が続く限りは定期的にライブをやった。
社長を継いだのは、結局未来だった。
高松さんの理念……というより、ハートというか、情熱を誰より理解していたし、自分が社長になっても高松さんの意見をないがしろ...Prhythmatic 7 ※二次創作
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6-2.
◇◇◇◇
「ミク。昨日のドキュメンタリー話題になってるみてーじゃねーか」
「え、そうなんですか?」
役員会議の始まりの高松社長の言葉に、初音さんが目を丸くする。
ドキュメンタリーというのは、アイドル卒業後、裏方に回りアイドルプロデュースとマネジメント業に専念していた初音未来の密着取材を...Prhythmatic 6-2 ※二次創作
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6.
それからの僕ら二人は、順風満帆とは言い難くても、トータルでは忙しくも幸せな日々を過ごせたと思う。
……余談だが、ラストライブの夜、僕と初音さんがお互いの想いを打ち明けた様子は、メイコさんとルカさんとリンさんの三人にバッチリ見られていた。
後日、三人に問いただされた初音さんは本当に頭から火...Prhythmatic 6-1 ※二次創作
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5-2.
「奏はどうするの? メイコさんたちのマネージャーを継続するの?」
僕は首を横に振る。
「いや、あの人たちの歌以外の仕事は他の人がマネジメントしてるから、僕は必要ないんじゃないかな」
「そうだっけ。じゃあ奏はマネージャー統括とか?」
のんきに言う初音さんに、僕は笑う。
「アイドル部門統括...Prhythmatic 5-2 ※二次創作
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5.
八年前、僕の衣装合わせのときの初音さんと高松社長の言葉が、ラストライブが終わるまでずっとしこりみたいに僕の心の奥底にあった。
あのとき以降、初音さんがその話を蒸し返したことなんて一度もなかった。社長も、CryptoDIVAの三人も同様だ。
そして、僕が初音さんに聞くことができたはずもない...Prhythmatic 5-1 ※二次創作
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4.
僕が執事服を着て業務をこなすようになって数年後、CryptoDIVAはメジャーデビューを果たした。
まだライブで十分な収益を上げていたし、動画サイトやダウンロード販売なんかの収益化の環境も整ってきた頃で、僕は内心ではメジャーデビューする必要なんが無いんじゃないかと思っていた。
だが、Cr...Prhythmatic 4 ※二次創作
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3-2.
……やはり、今後を含めてこれを着るのは僕だけってことだ。たとえ評判が良くて、他のスタッフの衣装も作ることになったとしても、ここまで派手にはならないんだろう。
「まあまあ奏クン。本番はともかく、いま試しに一回着てみてってば。絶対に似合うから!」
初音さんの言葉に、CryptoDIVAの全...Prhythmatic 3-2 ※二次創作
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3.
高校生活は、慌ただしく通り過ぎていった。
僕は高校生活を送りながらも、初音さんのマネージャーとして初音さんのアイドルとしての予定を管理しつつ、ついでに授業や宿題のフォローもして……なんというかまあ、高校生活自体はそれまでとあまり変わらない日々を過ごした。
変わったことは、アルバイトの一環...Prhythmatic 3-1 ※二次創作
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2-2.
カラン、という小気味のいい音とともに扉をくぐる。そして同時に失敗したな、とも思った。
カウンターの向こうにはワイシャツに蝶ネクタイとベストをきっちりと着こなし、白髪交じりのグレイヘアを綺麗になでつけた痩身の男性が立っていた。
ダンディな喫茶店のマスターだとひと目でわかる出で立ちだ。
...Prhythmatic 2-2 ※二次創作
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2.
彼女のライブを初めて見に行ったのは、高校二年の冬のことだった。
それまで動画で見たことはあったけれど、実際のステージを見たことはなかった。
行った理由は単純で、初音さんからチケットをもらったからだ。
これまでのお礼、と言われて。
というのも、僕はこの頃から彼女のフォローをしていたのだ...Prhythmatic 2-1 ※二次創作
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Prhythmatic ※二次創作
1.
「今ここにある希望はきっと、僕だけのモノじゃないから」
「え?」
そう聞き返した僕に、彼女は「だから僕はさ」と続けた。
「重ねた愛が言葉になって、誰かの元へ届くよう、祈るの」
初めて出会ったその日に、彼女が気負うことなくさらりと告げた言葉。それがまだ、僕...Prhythmatic 1 ※二次創作
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8.
「……」
ゆっくりとまぶたを開ける。
視界はまだ、漆黒の空と無数の星々のきらめきにおおわれていた。
おそらくは三十分か一時間くらいしか経過していないんだろう。……すごく長い時間がたったような気がするけれど、校舎の屋上でかすかにまどろんだだけだった、というわけらしい。
まだ夜は明けていな...ローリンガール 8 ※二次創作
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7.
「……」
ようやくたどり着いた高校の校舎を見上げる。
時間がわかるものをなにも身に付けてこなかったけれど、道路で転んでから、一時間は経過しているんじゃないだろうか。
僕は深呼吸をして、上がった息を整えながら考える。
どこに向かうべきだろう。
美紅にとっての特別な場所なんて知るわけがな...ローリンガール 7 ※二次創作
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6.
何年前と言っていたのかは……忘れてしまったが、美紅は、一度自殺しようとしたのだという。
過干渉でやることなすこと縛りつけ、少しのことでヒステリックに怒り出す母親。なによりも仕事優先で、無関心を貫き通した父親。そんな両親のせいか、学校でも皆とうまく馴染むことができなかったという。
やがてパ...ローリンガール 6 ※二次創作
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5.
ひたいになにかが当たっている。
柔らかくて……あたたかい。
それはほんの少し――せいぜい二、三秒――の時間のことで、すぐにひたいから離れていってしまう。
それにどこか名残惜しさを感じながら……目を覚ます。
「ん……」
まぶたをこすり、芝生から身を起こす。
この前、彼女が激突していた...ローリンガール 5 ※二次創作
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4.
僕が美紅と出会ったのは、高校に上がってからのことだ。
学校に行く意味なんて見いだせなかったけれど、だからといって母さんのいる家に居座りたくはない。とはいえ就職だなんてろくなもんじゃない。
中高一貫校だったから、進学に苦労はしなかった。真面目に勉強してる奴らを内心ではバカにしてはいたけれど...ローリンガール 4 ※二次創作
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3.
僕は本当の両親を知らない。
偽物の両親ならいるけれど。
五歳のとき、僕は孤児院からいまの家に養子として招かれた。
義理の父さんも母さんもいい人だ。
けれど、やっぱり……本物ではない。
別に本物の両親に会いたいわけじゃない。だって見たこともない彼らは、僕を捨てた人なのだ。会いに行った...ローリンガール 3 ※二次創作