タグ「悪ノ娘」のついた投稿作品一覧(166)
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終章 悪ノ卒業
緑の国との友好条約から四年後、ジンとアレンが十四歳になった年の革命記念日。
かつて国を救う技術が開発され、王宮裏に隠された研究施設。機材は全て破棄されて、その代わりいくつか寛ぐための家具がある。そして広い空間の中心には一つの肖像画が鎮座している。顔の良く似た、双子の兄妹のものだ...悪ノ父親(終章
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第八章 夢現
馴染みのある子供部屋のベッドの上で、アレンは意識を取り戻した。もう夜なのか部屋の中は薄暗く、夢の中で会った『天使』の記憶は現実を認識する分だけ壊れていくようだった。
アレンとよく似た、いやもっと言えば父とよく似た容姿をした年齢はアレンより三つか四つ年上の、可愛らしい少女。彼女は背...悪ノ父親(8
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アレンが退出した直後、イルの部屋にて。
「伯父さん、酷いぞ! アレンは本当に伯父さんの目を治したくて」
喚き始めたジンの口を再び塞ぐ。正直イルも息子とほとんど同意見なのだが、言われるまでもなくレンは心底後悔している。傍目には分からないかもしれないが、恐慌状態と言ってもいいくらいだ。
「ジン、いい...悪ノ父親(7-3
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父はアレンに優しくなった。理由は考えるまでも無くて、陛下がそう父に言ったからだ。
嬉しいか嬉しくないかと問われれば、もちろん嬉しい。朝の挨拶でほんの少しだけどこっちを見て笑ってくれた時もだが、夕食後部屋を訪ねて来てくれて分からない事があれば教えてくれると言われて、実際質問に答えてくれた時は、目眩...悪ノ父親(7-2
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第七章 留学
少し時間は遡る。アレンが九歳の時、イルの部屋にて。
「よう、レン」
近年はそこまで珍しい事でも無くなったのだが、本日は有能宰相の休日だった。イルとレンの休日はほぼ重なる事が無いので、更にアズリの休みとも違う日は大抵この義兄はイルの仕事を手伝ってくれている。
十年くらい前のいつか...悪ノ父親(7-1
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窓から夕焼けが差し込み始めた頃。
「たったこれだけで済む事を、なんでお前らは自分達だけで出来ねえんだよ?」
泣き疲れて眠る金髪の少年の身体を愛おしいげに撫でつつ、ブランデーを煽るレンにこう言わずにはいられなかった。
「僕らにとっては、『これだけ』じゃないんだよ」
不貞腐れるように嘆息される。
...悪ノ父親(6-3
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ソファに座って本格的に落ち着ける。
「ごめんなさい、陛下」
一しきり泣き切るまでただ抱きしめていると、天才少年からぼそりと普遍的な謝罪が漏れた。
「言うまでも無いと思うけど、もう絶対するなよ。信用ってのは、たぶんお前が考えてる以上に大切なんだ」
イルの個人的な意見を言ってしまえばむしろ感謝した...悪ノ父親(6-2
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第六章 馬鹿親子
レンが診察を断った一週間後、イルの部屋にて。
「え、青の国から?」
正式な断りはまだ入れていないが、頼んでもいない青の国からの医者が王宮を訪ねてきたとルナから聞き、イルは首を傾げた。更に彼女から医者が持って来たという黄の国からの手紙を渡され、度肝を抜かれた。
受取人がカイル...悪ノ父親(6-1
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宰相拉致事件から丸二日。赤の国へ送ったマリルが帰還したと知り、レンは仕事を中断して執務室に呼びだした。
「ご苦労様です。目的のものは手に入りましたか?」
侍女よろしく女中服に身を包んだ青の国の諜報員は、無言のまま紙束を取り出した。
「ありがとうございます」
笑顔で受け取るが、マリルはどこか納得...悪ノ父親(5-2
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第五章 帰還と反撃
王宮の入り口に一番近い応接間。
イル、ヴィンセント、ディーの三人と、どうしてもここに居ると言って聞かないジンが無言のまま待機していた。セシリアは完全な恐慌状態に陥ったアズリを部屋で宥めてくれている。
急いで最寄りの屯所に行って、数名の兵士にジンを預けて残りを率いて戻ったも...悪ノ父親(5-1
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「父様、開きました」
情けない事に、まだ手が震えてピッキングができそうになかった。だからアレンにさせたのだが、前の経験からか素早く錠前を外してくれた。
「これ、必要無いと思うけど」
ベストの裏に仕込んであった小刀を差し出すと、恐る恐ると言った具合だったが受け取った。もう一度頭を撫でて、手を繋いで...悪ノ父親(4-2
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第四章 救出
身体に断続的に伝わる振動で目を覚ました。ズキリと痛む後頭部に顔を顰めながら重い瞼を開けるが、目隠しをされているようで視界は暗いままだった。動こうにも、当然のように手足は縛られているらしく、ほとんど身動きが取れない。
「父様」
最愛の息子の声が耳元で囁かれ、とりあえず発声できる状況...悪ノ父親(4-1
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後ろから近づいて、口を塞いで脊髄に刀を突き刺す。喉を掻き切ったほうが確実だが、血飛沫で他に気づかれる危険性があるのでこの状況では却下。
しかし、見事なもんだ。
ほとんど作業と化している殺しをしながら、しっかりと視界の端に捉えている義兄の動きを見て、場違いにもイルは感心していた。
日々鍛錬は怠...悪ノ父親(3-2
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第三章 突入
「で、何処行くの?」
迷い無い歩調で進んでいく親友からは、質問で返事が来た。
「危険を冒して鍵を手に入れて、たぶんジンと協力して資料を盗んだ。お前ならそれから何処に行く?」
少し考えてから、可能性を思いつくままに言葉にしていく。
「戦利品を手に入れて、しかもそれを検分する必要があ...悪ノ父親(3-1
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昼食後、イルの部屋広間では国王・宰相・外務大臣・国防大臣・財務大臣五人による会議が開かれていた。まあ会議と言ってもほとんど形だけで、仕事の話を交えつつの談話会に等しい。
現に、ヴィンセントとアズリを除く三人は日の高い時刻にも関わらず、アルコールを煽っていた。
和やかな会話の中で、レンの脳裏には...悪ノ父親(2-2
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第二章 目的と思惑
せっかく武術を習って強くなったんだから、悪い奴をやっつけたい。だから、悪者の場所を調べてこい。
一番の親友であるジンにこう言われた時は、最初冗談かと思った。今までこの幼馴染の様々な悪戯に付き合わされては陛下の拳骨にお世話になっているが、今回ばかりはばれればそれでは済まない気...悪ノ父親(2-1
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二人とも、母親の遺伝子は何処に捨ててきた?
アレンとジンを二人並べて見て、昔からイルとレンを知る者は大抵こう言うし、父親である自分達も全くもって同感だ。燃えるような紅髪と輝く金髪を始めとする外見はもちろん、性格やら口調までもが二人とも父親と瓜二つ。
イルもレンも愛妻家(愛犬家)なので、少しくら...悪ノ父親(1-2
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第一章 家庭内事情
午前六時、いつも通りの予定通りにアーレンハイル=ハウスウォードは目を覚ました。枕元の懐中時計でそれを確認し、隣ですやすや眠っている母を揺さぶる。
「母様、朝だよ」
眠りを妨げるアレンに眉を寄せながらも母、アズリ=ハウスウォードはすぐに眼を開けた。髪と同じく黄緑色の瞳に捉えら...悪ノ父親(1-1
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終章 雨降って地固まる
「きゅ、休暇取り消し!?」
二日後の夕食後、アズリの泣きそうな悲鳴が部屋に響いた。そのまま蹲って地面に向かって呪いの言葉を吐き出し始めた恋人を見て、極大の疲労感を覚えつつ頭を掻く。
認める。レンが悪い。
他の女性と一週間も現を抜かし、その我慢代として提示していた休暇を...悪ノ召使 番外編(終章
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「はあ、これから仕事か」
身体を伸ばしながら室内への入り口に足を向けた。普段の仕事に加えてアズリの分もある。本気で取り掛かり、ディーの指定した時間までに終わらせなければならない。
「レン」
これが戦争経験のなせる技なのか、完全に気配を絶っていた親友に中庭から出たところで背後から声をかけられ、心臓...悪ノ召使 番外編(18-3
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王女を連れ出して中庭に座らせて、サリーに紅茶を出してもらった。この二日と同じように、彼女が楽しめそうな話題を選んで口に出して行く。
いつかの侍女程ではないがこの王女様の度胸も大したもので、すぐに表面上に平静さを取り戻した。そんな王女を見て、改めて思う。
リンに似ている、と。
レンに会ってから...悪ノ召使 番外編(18-2
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第十八部 傲慢
青の国第三妃の末子としてこの世に生を受けたユリーシャ=ミットフォードは、幼い頃から酷く病弱だったことから外出を極端に制限されてきた。青の国の風習で実の兄姉にもなかなか会えず、人恋しさから周りの人間がどうすれば己に会いに来てくれるかを常に考えるようになった。
ユリーシャはその幼少...悪ノ召使 番外編(18-1
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次の日。
宰相執務室で日常通りの仕事を午後から時間を作るために二倍速で片づけていると、歩哨と聞き覚えのある声の短い口論が聞こえ、それから歩哨の制止の声を遮って乱暴にドアが開けられた。そうして入って来た総務大臣と、その後ろから小柄な身体をただでさえ小さく丸めた恋人が続く。
二人とも両手一杯に書類...悪ノ召使 番外編(17-2
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第十七部 嫉妬
青の国第十七王女、ユリーシャが黄の国に来た次の日の夜。まだ期間にして丸二日も経っていない二も関わらず、アズリの精神状態は最悪を極めていた。
「また、夕飯さぼられた」
寝る仕度を済ませてしまってから、苛々と吐き捨てて自室のベッドに潜り込む。そんなに長い時間付き合わないと言っていた...悪ノ召使 番外編(17-1
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カイル王子が帰国した次の日。イルはレンとセシリアと共に、応接間で賓客を待ちうけていた。相変わらず親友はこの期に及んでも冷静で、他二人の方が緊張しているのは火を見るより明らかだ。
レンが部屋に来る前にカイルにユリーシャ王女の密かな恋心を打ち明けられて、イルはほとほと困り果てた。政治的な理由ではなく...悪ノ召使 番外編(16-2
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第十六部 縁談
青の王子の突然の来訪から六日、帰国前夜にレンは再びイルに王子との晩餐に誘われた。
「カイルがどうしてもって言うんだよ。時間取れないか?」
話があるなら何度も行った会議中にでも言ってくれればいいのに。そんな事を思いながらも、その日は仕事が定時に終わったので親友の部屋に赴いた。夕食...悪ノ召使 番外編(16-1
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遅れに遅れた仕事をようやくこなして、セシリアとカイルとのんびり夕食をとった後のこと。
「マリルもダヴィードも、悪いようにはしないで済むと思う」
広間のソファに隣り合って座りながら、会議の結果を訊ねられたのでこう返すと、元青の王女はとても嬉しそうだった。
「ありがとうございます。彼らには、本当にお...悪ノ召使 番外編(15-2
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第十五部 夜伽話
「なんで僕の寝間着着せてるの?」
サリーにしっかりと世話を頼んだはずで、しかし会議を終えて部屋に戻った時なぜかアズリはレンの寝室で寝ていて、そして科白通りレンの寝間着を着ていた。
「女性の家具の中覗く趣味はありません」
レンのクローゼットを漁る趣味はあるのだろうか。悪戯心たっ...悪ノ召使 番外編(15-1
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なんでこんな事態になっているんだろう。
地下に造られた練兵室。表向きは武術とは無縁の貧弱男である、レンが訓練するときのために作ったもので、位置的にも滅多に人は近づかない。その部屋で繰り広げられている木剣のぶつかり合いを見ながら、レンはこう思わずにはいられなかった。
カイルの知らせから数時間。有...悪ノ召使 番外編(14-2
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第十四部 青の王子
鬼も逃げ出しそうな殺気を放ちながら、嬉々として謁見の間を出て行く親友の背中を見送った。
運の悪い奴だな。その外交官も。
内心で呟く。他国から来る外交官に毒を盛られたことなど、レンは普段きっちり記録しつつも感情的には全く気にしてはいない。
今回あれほど憎悪を漲らせているの...悪ノ召使 番外編(14-1