タグ「小説」のついた投稿作品一覧(110)
-
10.黄色の郵便飛行機
島の空に双発機のプロペラ音が響いた。
鮮やかな黄色に塗られた飛行機が、島の広場をぐるりと旋回した。
広場で遊んでいた子供たちが空を見上げ、わあっとはしゃいだ声を上げた。
「レンカちゃーん! レンカちゃーん!! リントが帰ってきたよー!」
広場の一角から狭い石段を駆け上...滄海のPygmalion 10.黄色の郵便飛行機
-
9.四年後 ~レンカとリント~
レンカが十八歳となった夏、十三の歳から始めていた彼女の岬の女神像にまつわる探究活動はあっさりと幕を下ろした。
ある嵐の日、女神像が倒れ、その台座の下から、建てられた当時の石版が見つかったのだ。
『国の守りとして、ここに像を建てる』『岬の端、大陸勢力への見張りとして...滄海のPygmalion 9.4年後 ~レンカとリント~
-
8.間章
「ねーえ。レンカおばあちゃん」
岬の端のサンダルの像の前に、老人と少女は並んですわり、真っ青に澄み渡る海を眺めていた。
「おばあちゃんは、ここから海に飛び込んだの?」
孫娘がこわごわと、這って崖ににじりより、ひゃっとすぐに悲鳴をあげて戻ってくる。
三階建ての建物くらいの高さはあるよう...滄海のPygmalion 8.間章
-
7.石像の心
「冷たく白い石像、面影にそっと手が触れるとき」
白い女神像が、真っ青な海に向かって手を広げる隣で、白い頬をしたルカの唇が小さく動く。
「朱に染まり色づく頬、あなたに逢いたい……」
真昼の、海から吹く風が、ルカの唇にそっとくちづけては陸へと飛び去っていく。
ルカは、昼食を取らずに博...滄海のPygmalion 7.石像の心
-
6.ルカの家庭
島の昼間。夏も近づくこの頃の太陽は、眩しく高い。白い石畳と粘度の壁が、鮮やかに光を反射している。時折家々の軒先に日よけとしてしつらえられた葡萄の棚が木陰を落とす中、ルカは濃い影を映しながら歩いていた。
「冷たく白い石像、面影にそっと、手が触れるとき……」
うつむき歩くルカの桃色の...滄海のPygmalion 6.ルカの家庭
-
5.歴史と伝説とレンカ
「歴史と伝説は違うよ」
レンカにそう教えてくれたのは、この島のただひとりの学芸員のヒゲさんことヴァシリス・アンドロスだ。
「歴史は事実で、伝説は文化だ。歴史は事実だから、ただひとつしかなく、変わらない。しかし伝説は、人の数だけ生まれるといってもよい」
* ...滄海のPygmalion 5.歴史と伝説とレンカ
-
4.女神像とルカ
今日も岬日和だった。「島の名物は、景色!」。その謳い文句の通りに、リントとレンカは、ルカを岬に連れてきた。
ひとしきり女神自慢、伝説への考察を披露したあと、リントは女神の足元におさまり、レンカはいつものように海へと向かっていった。レンカはルカにも海に入らないかと誘ったが、ルカは...滄海のPygmalion 4.女神像とルカ
-
3.夕焼け色の髪の少女・後編
ルカがレンカの拾い集めた石片を弾き飛ばしたことに、リントは凍った。あまつさえ、彼女はその石片の一つを掴んで投げようとしている。
「あいつ! やっていいことと悪いことが……! レンカ! 落ち着けよ?!」
リントが、ルカを押さえるかレンカを心配するか迷った隙に、レンカが...滄海のPygmalion 3.夕焼け色の髪の少女・後編
-
3.夕焼け色の髪の少女・前編
岬から白い石の道をたどって下り、広がる葡萄畑を通り過ぎ、再び街のある高台へと向っていく。この島の大地と同じ色で作られた石粘土と漆喰の壁が立ち並ぶ街は、訪れたばかりの青い夕闇に抱かれて、にぎやかな喧騒を見せていた。
「しまった! 明日は休日だった!」
「ヒゲさん、まだ仕...滄海のPygmalion 3.夕焼け色の髪の少女・前編
-
66.ゆすらうめの花 ~白ノ娘、ハクの最終回~
初夏。緑の国が一年で一番輝く季節。
ハクは、緑の王都の港に近い、海の見える丘の上にいた。
「ミクさま。ネルちゃん。……来たよ」
ミクの墓に植えられた木は、美しい若葉を輝かせており、その下に寄り添うネルの墓には、ゆすらうめの樹が植えられていた。ユス...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 66.ゆすらうめの花 ~白ノ娘、ハクの最終回~
-
65.再び、海辺の町にて ~リン~
* *
少しだけブリオッシュが上手く焼けるようになったころ、ハクは、リンをもとの緑の王都の酒場まで送ってくれた。
酒場の夫婦は心配のあまり、帰ってきたリンを怒りまくり、そして、玄関の扉を開けて抱きしめてくれた。
「君は王女、僕...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 65.再び、海辺の町にて ~リン~
-
64.リグレット・メッセージ
「レン……!」
暁色の髪の青年が、飛びこんできた彼女を、立ち上がってしっかりと抱きとめた。
青年の腕の中で、リンの息を吸い込む音が、浜辺いっぱいに響いた。
「……背、伸びたね」
「うん」
「……声、変わったね」
「うん」
「ねぇ、レン」
「うん?」...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 64.リグレット・メッセージ
-
63.輝きを留める者
おだやかな波が、朝の浜辺を寄せては返していく。同じ動きをくりかえしてはいるが、同じ波は二度とは来ない。
「……前は、蹴られたのに」
「今は、そんなことしないよ」
男が、手に握った短剣の柄を向けて、ハクにそれを返す。光の中で見ると刃は少し欠けていた。ハクの命を、暴徒から救っ...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 63.輝きを留める者
-
62.暁
刃を前に、リンの唇がつぶやいた。
「ただの娘として生きてしまって、ごめんなさい。わたしは、悪ノ娘なのに」
……わたしに斬られたホルストやシャグナは、痛かっただろうか。刃を向けられたメイコは、怖かっただろうか。そして、死に追いやったミクやレンは、苦しかっただろうか。
ハクの刃の狙いが、わ...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 62.暁
-
61.白ノ娘、悪ノ娘
星明りを頼りに、ハクはリンを散々探した。
そしてついに、まだ夜の明けきらぬ青い闇の中で、ハクは浜辺にたたずむリンを発見した。
「リン……! やっと見つけた……!」
一瞬子供たちに囲まれて笑顔をみせるリンが脳裏をよぎったが、腹の底から燃え上がる恨みと怒りの炎がそれを吹き消...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 61.白ノ娘、悪ノ娘
-
60.真実と葛藤とミクの短剣
ハクは走っていた。真っ暗な夜道の石畳を、リンを追って走っていた。
戸口から駆け去る際にちらりと見えたリンの向かった先は、海の方角である。
「あの娘、あの娘、あの娘……! 」
ハクの奥歯が、ぎりりと噛みしめられる。
「あの娘、本当に、『女王リン』だ……!」
ハクの...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 60.真実と葛藤とミクの短剣
-
59.巡り音の青年
ハクー、出発するよー、と、外から叫ぶリュイの声がする。
ハクは教会の脇の宿坊の、二階にある自室で、町にとまるための荷物をまとめていた。
替えの服と日用品の準備はとっくに終わっているのだが、ハクの手はあるものの前で荷物に加えるか否かを迷っている。
それは、五年前、ミクがハク...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 59.巡り音の青年
-
58.ヨワネの今、ハクの今
ハクの心配に反して、リンと名乗った少女はすんなりと子供たちの輪になじんだ。
「リン! これ、あたしの刺繍だよ! きれいでしょう!」
「あー! リュイはすぐ得意な柄ばっかり見せるんだから! ハクさんには、別の柄の練習もしなさいって言われているのに」
「自分の最高の作品を見...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 58.ヨワネの今、ハクの今
-
57.教会の少女
リンの目の前に、白い髪の女が居た。
そして、たくさんの子供たちが、リンをぐるりと囲んでいた。
リンの目の前には、温かな葉野菜と根野菜を煮込んだスープ、そして穀物と豆の粥がある。
食事が乗っているのは、質素な長四角のテーブルだった。しかし、大きい。長四角の卓が二つ並べられ、十...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 57.教会の少女
-
56.五年後、海辺の町にて
―五年後―
* *
“まさに彼女は悪の娘”
初春の宵。柔らかな夕闇が海辺の町を包む頃、灯りの燈った酒場に、一日の仕事を終えた男たちが集まる。談笑とともに、いつものようにがなる歌が響く。
“昔々あるところに、悪逆非道の王国の、頂点に君臨...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 56. 五年後、海辺の町にて
-
55.5 間章 ~リンとルカ。カイトとメイコ~
空を焦がす夕焼けが去り、夕闇が激動の黄の国にゆっくりと降りてきた。行交う人は皆興奮し、すべての通りが祭りのように沸き立っている。
人々の顔は、夏の日照りにさらされて、乾き、汚れ、やせ細ってはいたが、今や疲れ切った表情をする者はいなかった。
戸惑い...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 55.5 間章 ~リンとルカ。カイトとメイコ~
-
55.王の首の収穫祭 ~運命の午後三時~
午前十時の鐘が響くころには、すでに王宮広場は人で溢れていた。
みな、女王の処刑を見に来たのである。
自分たち黄の民を苦しめた、悪の女王の最期を見届けに来たのである。
その日も朝から快晴であった。
夏の暑さも涼やかに去り、見事な秋晴れである。
レン...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 55.王の首の収穫祭 ~運命の午後3時~
-
53. 悪の娘、悪の召使
「この、無礼者!」
レンは、自分の声が凛と響いたことに満足した。
「……よかった。間にあった。」
……自分が、彼女の身代わりになれる間に、この国は変化を成し遂げた。
顔はいくら似ていても、もうじきレンの声は太い男の声に変わる。
兆候は出ていた。だから、レンは出来るだ...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 53.悪ノ娘、悪ノ召使
-
52.リンの本音、レンの告白
「これを着てお逃げなさい」
レンが自分の服を突然脱いで差し出したのを、リンは呆けたように見つめていた。
「レン。逃げるのは召使のあなたの方でしょう? あたしは女王ですもの、ちゃんと残って、王の政治の責任を取らないと」
「馬鹿野郎!」
ついにレンは怒鳴った。
「君は女...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 52.リンの本音、レンの告白
-
51.レンの思い
もうすぐこの国は終わるだろう。
この朝、レンは目覚めてふと、確信した。
この日の朝も、王宮広場は日の出から大騒ぎだった。だんだんと、武具を持った人が増えてくる。王宮に武器を向けることを恐れなくなってきているのだ。
やや黄色みのかかった木の葉が、レンの目の前を風に吹かれて舞い...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 51.レンの思い
-
50.誕生、紅き鎧の女騎士 ~後編~
教会の鐘が鳴り響いて一日の終わりを告げた。夜八時の、この日最後の鐘の音だ。
「じゃあ、メイコ。私、そろそろ下の食堂で歌ってくるね」
メイコが、自分の寝台に立てかけた楽器を右手に取り、菓子を食べ終えた盆に二人分の杯を左手に乗せて器用に扉を開けた。
「メイコも、...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 50.誕生、紅き鎧の女騎士 ~後編~
-
50.誕生、紅き鎧の女騎士 ~前編~
夕方になっても、黄の国の王都の興奮は収まらなかった。夏の暑さはすっかり引き、涼しい風が夜と星を連れてくる。
相変わらず乾燥した満天の星空の下、秋の始まりの日の夜は、人々の熱気に包まれていた。
「いいぞー! メイコー!」
「姐さん、かっこいいよな!」
「恐怖の...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 50. 誕生、紅き鎧の女騎士 ~前編~
-
49.イグニッション(点火)
「パンを寄こせ!」
「パーンをよーっこせ!」
群衆の叫びに節が乗り、さらに声が大きく広がっていく。
「……ふふ」
王宮広場に続く回廊を歩きながら、リンは薄く微笑んでいた。
「……こんなに困窮するまで、あたしたち王や諸侯に頼りきりだったくせに」
ドレスをひるがえして...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 49. イグニッション(点火)
-
48.秋の月、第一日目の朝
夜明けとともに、遠くから、近くから、ざわめきが聞こえてくる。それはやがて小さなまとまりとなり、だんだん大きな塊となり、乾いた黄の大地を埋め尽くす。
昇る陽とともに、熱い人のうねりが近づいてくる……。
「リン様! リン様!」
朝一番に駆けこんできた女性の召使は、すで...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 48. 秋の月、第一日目の朝
-
47.Brioche ~ブリオッシュ~
風向きが変わり、夏の月はもうじき終わろうとするも、黄の国に雨雲の姿は無い。乾いた風が強まる中、リンは黄の軍を引き連れて王都へと戻ってきた。
「緑の国を討つ」と発った時は、期待のこもった大歓声で見送られた女王だったが、その帰還を迎えてくれた者は、緊急事態に召...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 47.Brioche ~ブリオッシュ~