タグ「小説」のついた投稿作品一覧(110)
-
46.革命の萌芽 ~後編~
「……おい! 」
押し込んだ男の一人ががなる。
「なんのつもりだ、てめぇ!」
「酒なんて飲んでやがって、てめえ」
男たちがぐっとメイコに向かったそのとき、彼女はその目の前で鮮やかに薬草酒をあおった。そして、その杯を音高く彼らの足元めがけて叩きつけた。
男たちの動きが...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 46. 革命の萌芽 ~後編~
-
46.革命の萌芽 ~前編~
黄の国の王都は、静まり返っていた。
いつもの夏の終わりのような、落ち着きのある静けさではない。人は居るのに扉の向こうで息をひそめているような、そんな不気味な静けさである。
とある宿の食堂で、『巡り音』のルカは歌っていた。日も暮れてから大分経ち、通りはすっかり静まり返...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 46. 革命の萌芽 ~前編~
-
45.5 間章 ~カイトとハク、それぞれの帰路~
すっと陸から風が吹いた。
「……緑の国に、秋がくるな」
そうつぶやいたのは、カイトである。
カイトは、緑の港の沖合に浮かぶ船の上にいた。カイトは、緑の国まであとわずかという所で、黄の国の港から回ってきた船団に、緑の港をふさがれた。使節団として緑...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 45.5 幕間 ~カイトとハク、それぞれの帰路~
-
45.海の見える場所
丘を上ったところに、緑の王族の眠る墓地がある。他の国の王族とは違い、この国の王は才能の競争の中で選ばれる。墓も平民とともに眠る。
海に開けた丘は、展望は一級だったが、その墓石は名と簡単な言葉を刻む、質素なものが多い。海を渡りゆく先祖をもつ緑の民は、大地へのこだわりは今でも薄...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 45.海の見える丘
-
44.晩夏の葬列 ~後編~
「何!」
しっかりとかぶった皮の頭巾のせいで、蹄の音に気づくのが遅れた。ハクはあわてて四人の子らを集めたが、間に合わなかった。
「誰か居るな!」
男の声の呼び掛けと同時にバタンと戸が弾かれ、兵士が三人、屋敷の土間に居たハクたちの前に降り立った。ハクはとっさに腕を広げて...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 44. 晩夏の葬列 ~後編~
-
44.晩夏の葬列 ~中編~
緑の国の王宮に居るリンに、ヨワネや他の職人町の自決の知らせが届いたころ。
ハクは、教会の敷地の隅に立つ、石造りの小屋の前にいた。
その小屋は、北向きの日陰に隠れるようにして立っている。緑の国の夏の太陽は、徐々に高く上り、輝きを増しつつあるが、常緑の大木に隠れるように...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 44. 晩夏の葬列 ~中編~
-
44.晩夏の葬列 ~前編~
「なんですって? 」
緑の女王の玉座には、現在、黄の女王のリンが座っている。
「緑の民が、次々に自殺している?! 」
緑の各地に展開する黄の軍から次々にもたらされる情報に、リンはがたりと玉座を立ちあがった。
「織物の町ヨワネ、鉄鋼の町ククンダ、木材加工のシルガンド。住...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 44.晩夏の葬列 ~前編~
-
43. ハク、新生
昔住んだ森の中に、ハクはひっそりと身を寄せた。
ヨワネの町のほうから、時折騒ぐ声が聞こえてくる。黄の兵が、ヨワネに到達したのだと気づいた。
「……」
ハクは、工芸の町ヨワネの工房に、物心ついたら住んでいた。同年代の子供たちよりもだいぶ早く針を握り、そして森の中に小さな家を与...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 43.ハク、新生
-
42.罪なき逃亡者、ハク ~後編~
一軒の工房の前でハクは立ち止まった。
そこは、ハクが長い間、刺繍職人として働いた場所だった。
森の中にたった一人で住み、毎日ここへ通ってきていたのだ。
町を出た日と変わらない、長い年月に乾いた木の扉が、ハクの目の前にある。
「……どうも……」
ほかに、言...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 42.罪なき逃亡者、ハク ~後編~
-
42.罪なき逃亡者、ハク ~前編
走り去るハクの背に、暗闇の中からネルの悲鳴が聞こえた気がした。
「ネルちゃん……! 」
しかし、振り返ろうとするとすかさずネルの相棒の鷹かハクの頭をつつく。
「痛い! 痛い! 解ったってば! 」
振り返ろうとする視界は翼にさえぎられ、うしろ髪を引かれる耳はその...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 42.罪なき逃亡者、ハク ~前編
-
『一ヶ月と三日遅れの誕生日』後編!
「で? 声が出ないって」
「うん。なんだか、恥ずかしくって」
「そりゃそうか。『生まれてきてごめんなさい』な人だもんね、あんた」
ネルが鼻歌で曲を付けて歌う。
「もうこれでいいんじゃない? 題は『白の娘』」
「いいわけないでしょ! もう……困るよ」
「ああほんと...ちょっと一休み『一ヶ月と三日遅れの誕生日』後編!
-
41.ネルの意地
ネルとハクは王宮を出て夜の町を走っていた。
「ネルちゃん、ネルちゃん……待って」
ハクの足がもつれ、ネルがもどかしげに引っ張る。
「何よ! 急いでどこかに隠れないと! 黄の国の軍が押し寄せてくるわよ! 」
「待って! 」
強くハクが引っ張り、ネルはつんのめるように振り向く。
...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 41.ネルの意地
-
40.最後の言葉
「……ねぇ、レン。リンと一緒に、私の家来におなりなさいな? 」
命を失う直前、抱き上げたミクは、レンにそう囁いた。
「さすが、ハクの惚れた男だわ」
レンのことを、ミクはそう評した。
なんという皮肉だろう。レンは、ハクと青の国で別れた後、もう二度と交わることのない運命だと覚悟し...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 40.最後の言葉
-
39.ミクの命
夜の闇に鋭く響いた笛の音。それを聞いた瞬間、召使の姿をしたリンは、手持ちの荷物に火打石を打った。
乾いた縄に火花が散る。鞄の布の端に着火したことを確認すると、リンはその鞄を与えられた控え室に置いたまま、部屋を走り出た。
「あっ。どこへ行かれます……」
扉の前で控えていた緑の国の...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 39.ミクの命
-
38.密会
ミク女王とリン女王。小さな緑の国と、大きな黄の国を守る二人の女王が、真夜中の庭で対峙した。
「ミク様」
「リン様、ご即位おめでとうございます」
ミクが、大きな月を背に静かに微笑んだ。薄い闇と黒い木立、そして静かな池がミクの背後を守っている。
昼間は美しい緑を見せる庭も、この夜は静か...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 38.密会
-
37.運命の歯車
「緑の国は、青に渡さない」
それは黄の国のリン女王の願い。
「黄の国を、青の皇子への手土産に」
それは緑の国の女王、ミクの願い。
互いの国の幸せを願う、二人の女王の思惑が、夜半過ぎの緑の王宮で、ひそやかに激突しようとしていた。
ネルは王宮の通用門から黄の国の二人を中へと導い...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 37.運命の歯車
-
36.国境
黄の国の一隊長セベクの天幕にて待つ緑の国の密使、ネルのもとへ、乗馬の装備に身を固めた女王と、荷物を抱えた召使が現れた。
「ミク様にお会いするためのドレスです」と召使は説明した。
「お待たせいたしました。ネル様。参りましょう」
静かな声音で女王がのたまう。風は徐々に夕方の気配を含み始め...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 36.国境
-
35.太陽の陰で
まずリンがしたことは、全軍にネルの存在を知らせることだった。
「あなたが、緑の国からの使者だということは皆に知らせておいたほうが良いわ」
ネルがリンの居場所を突き止める前に、他の黄の兵士に捕まったことで、「黄の軍に緑の者が紛れ込んでいる」という噂が広まってしまっていた。
「もし...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 35. 太陽の陰で
-
34.届けられた密書
リンは進軍の只中にいて、集まる人々を激励し、鼓舞した。
「黄の国の明日は、あなたたちにかかっているわ! 」
実際その通りだった。旱魃で苦しむ人々は、女王から支給される食べ物と賃金は本当に魅力的だった。もとより居た兵士たちは新しく参じた人々を兵士として激励し、新しく兵士となっ...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 34.届けられた密書
-
33.緑の思惑、黄の進軍 ~黄編~
そのころリンは、ホルストの編成してあった軍を動かし、緑の国に向かっていた。
「ホルストはたしかに、良い読みをしていたわね」
王都は諸侯に任せてある。リンは彼らにある仕事を頼んでいた。
ホルストとシャグナの遺体と領地の後始末である。
ホルストの遺骸は、見つか...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 33.緑の思惑、黄の進軍 ~黄編~
-
33.緑の思惑、黄の進軍 ~緑編~
「ミクさま!」
この日も緑の国の女王、ミクは、ハクとともに刺繍にいそしんでいた。そのミクのもとに、金色の髪の若い女が飛び込んできた。ハクとともに和やかな時を過ごしていたミクの緑色の目が、一瞬で緊張をはらんで輝く。
「ネル! 待ちかねたわ!」
ミクが玉座から立ち...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 33.緑の思惑、黄の進軍 ~緑編~
-
32.鳴く風、巡る音
「生きたい。生きて、この国の行く末を見たい。」
……それが黄の国の巨星、ホルストの最期の言葉となった。
小さな鞄に全ての荷物をまとめ、メイコは長く暮らした城を出た。中身は全て金貨だった。リン女王から頂いた、退職金だった。
服も本も、思い出も全て城で処分するように、出会った...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 32. 鳴く風、巡る音
-
31.落ち逝く星
「ホルスト様!」
玉座の間の外の番兵が、血まみれになって出てきたホルストと医者のガクに色を失った。
「すぐに医者と担架を!」
「私が医者だ。担架と、そして部屋をひとつ空けてくれ! そして私の道具を返してくれ!」
すぐに走り出そうとした番兵を、ホルストの声が止めた。
「いい。……...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 31.落ち逝く星
-
30.解雇、そして
「私が死すれば、この力、黄の国は失うぞ!」
そう叫んだホルストを、女王リンは剣で刺した。
「……!」
ぼたり、と重い血の塊が赤いじゅうたんに落ちた。
「リン殿! ホルスト殿!」
「ガクの縄を解きなさい。その医師は単なるホルストの雇われ者。もう用は無いわ」
縄を解かれたガクが...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 30.解雇、そして
-
29.粛清
諸侯の中でも強い力を持つシャグナが捕らえられた。そして、殺された。
ホルストは、王城まであと一日半という道のりの途中で、リンの遣わした兵士達に捕らえられた。
「何をするか! 私はこの国の重要な地区を治める諸侯のひとりであるぞ!」
「リン女王殿下のご命令にございます」
なに。メイコは...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 29.粛清
-
ちょっと一休み・悪ノ娘と呼ばれた娘 後編
それはちょっと昔の黄の国のお話。
黄の国の諸侯の一人、シャグナは最悪の気分でした。
ふと気がついたら、手に大きな青あざがあります。腹がなにかにぶつけたようにジンジンと痛みます。そして、日向に長時間さらされたようなぐったりとした倦怠感があります。
「それ...ちょっとひとやすみ・悪ノ娘と呼ばれた娘 後編【悪二次・小説】
-
ちょっと一休み・悪ノ娘と呼ばれた娘 前編
それはちょっと昔の黄の国のお話。
むかしむかしのほんの少し前。
大きな大陸の大きな王国は、砂漠に暴れ川、険しい山脈に海の向こうの豊かなライバル国と、かなり厳しい状況を抱えていました。
そして、その国の頂点に君臨していたのは、まじめで呑気な王様でした。...ちょっとひとやすみ・悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】
-
オリジナル小説 『夢と勇気、憧れ、希望 ~湖のほとりの物語~』番外編
アル・レティ後日譚 「踏み出すその先」
ルディ事件の終幕から5年。
レティシア・バーベナは、その身に引き受けた魔法からついに自由なった。
薄紅の髪、青のしっぽ、そしてやわらかな微笑みを取り戻した彼女は、それから魔法を学び始め...【オリジナル】夢と勇気、憧れ、希望 ~湖のほとりの物語 番外編 「踏み出すその先」
-
21
「どうした。レティ」
レティシアが、信じられない、とばかりに、再び剣を振るう。
突きから袈裟懸けに切りにかかる、二段攻撃。続いて胴を払う三段攻撃。
なんと、アルタイルは、全ての攻撃を避けきった。
「いつのまに、私の攻撃を避けられるようになったの? 」
本当なら、相方の上達はうれしくて...【オリジナル】夢と勇気、憧れ、希望 ~湖のほとりの物語~ 21
-
20
秋の風が吹き抜ける中、祖父の葬儀のため、セディンは、一日だけ休みが与えられた。
村の完全復興には、三ヶ月たった今もまだまだ遠い。特に、荒らされた作物への保険業務が、小さな村の、小さなルディ対策課にのしかかってきたのだ。
「穏やかなルディでしたからね。対策課も人員削減されまして」
お恥ずか...【オリジナル】夢と勇気、憧れ、希望 ~湖のほとりの物語~ 20