作品一覧
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国王のそれにしては飾り気の少ない執務室で、レオンはぼんやりと過ぎていく時間を数えていた。
何をするでもなく物思いに沈むというのは、彼にしては随分と珍しい行為だ。
刻限は既に深夜に近く、物音ひとつない室内は静かだった。
王妃はとうに部屋で眠っているだろう。
深刻な話がひと段落ついたところで、やっと少女...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第7話】後編
azur@低空飛行中
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自室の扉を閉ざすなり、彼はその場にしゃがみ込んだ。
「やられたよ。まったく役者だな、君は!」
視線を上げ、傍らで笑う少女を恨めしげに睨みつける。
「どうやって、ここに?ボカリアからは何の連絡も届いていない」
「私、ひとりでも馬にくらい乗れますわ」
「・・・王妃殿は病弱で、慣れない土地に体が合わずに臥...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第7話】中編
azur@低空飛行中
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王宮内は騒然としていた。
謁見の間に集められた家臣らが、口々に交わす噂や考えが入り混じって、広間をざわざわと人の声が満たしている。
それを一段高い玉座から見下ろして、年若き国王は溜息をついた。
「今日集まって貰ったのは他でもない・・・――」
「城下で王妃様が何者かに襲われたというのは真実なのですか!...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第7話】前編
azur@低空飛行中
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目覚めは明け方近くのことだった。
小さく咳き込む呼吸に、浅いまどろみの中にいたカイザレは飛び起きた。
良く出来た人形のように身じろぎひとつしなかった少女の睫が震え、うっすらと瞼が開く。
「ミク!」
「お兄様・・・」
カイザレの呼び掛けに、かすれ気味の声が応えた。
ぼんやりと煙る碧の瞳が、まだ薄暗い部...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第6話】後編
azur@低空飛行中
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扉の開く音に、メイコは居住まいを正した。
「待たせて申し訳ない」
「いえ・・・、こちらこそ、こんな所まで押しかけてすみません」
立ち上がりかけたメイコを片手で制し、部屋に入ってきた青年は小さなテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰を下ろした。貴族らしい鷹揚な振る舞いだが、幾分乱れた青い髪や精彩を欠く表情に...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第6話】中編
azur@低空飛行中
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街の中心を貫く大通りを馬が駆ける。
衛兵達が道の左右に人々を押し込めて、人々はその向こうで常にない事態にざわめいている。
今は丁度、夕刻前の市の経つ時間、最も街が活気付く時間だ。
通常ならばこの時間帯に通りを無理に空けさせるのは極力避けるところだが、今ばかりは彼もそれどころではなかった。
先導を務め...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第6話】前編
azur@低空飛行中
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人混みの中を早足に進みながら、ミクの気持ちは弾んでいた。
知り合ったばかりの友人に会いに行くからだ。
気の進まない結婚の憂鬱も、この時だけは忘れていられる。
その友人――メイコは、ミクにとって特別な友人だった。
彼女はこの国で出来た最初の友人であり、そして数多いミクの友人の中でも類を見ない人だった。...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【幕間】
azur@低空飛行中
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活気付く大通りで、レンはひとり重い溜息をついた。
気に掛かるのは勿論リンのことだ。
あれから一晩の時間をおいて一先ず怒りは収まったものの、朝からずっと沈んだ様子で部屋に篭もったままなのだ。
朝も昼も、今ひとつ食の進まなかったリンのために、レンはあてもなく市場を歩いている。
「参ったな。あんまり長く時...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第5話】
azur@低空飛行中
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「何よ、あんな女!」
舞踏会から戻ってからの、リンの荒れようといったらなかった。
並ぶものなき大国の頂点に君臨する彼女にとって、他人から軽んじられるなど、屈辱以外の何者でもない。気まぐれに話し相手に選んだ青年から、すっかり存在を忘れられたことに、彼女の自尊心は傷ついていた。
その前にレンが彼女に見蕩...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第4話】
azur@低空飛行中
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近付いてくる人影に、花嫁は伏せていた顔を上げた。
会話も無く寄り添う二人は、まるで美しい絵のようだが、互いを見つめるでもない視線はどこか余所余所しく、ぎこちない。
「お兄様・・・」
その声に花婿もやっとそちらに視線を向け、蒼い髪の青年の姿を認めた。
二人の男は無言で向き合い、儀礼的に会釈を交わした。...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第3話】後編
azur@低空飛行中
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夜の舞踏会の会場は、式典の行われた城の中枢とは場所を別にして、少し離れた庭園で行われた。
幾つもの篝火が照らす夜の庭園には、着飾った紳士淑女が歓談している。
その中に一際、人目を集めている二人がいた。
「レン、喉が渇いたわ」
「何か取ってきます。ワインが良いですか?紅茶?それとも果物?」
「ワインが...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第3話】前編
azur@低空飛行中
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もう間もなく結婚式が始まる。
ここ、シンセシスの若き国王と、その王妃となる人の結婚式だ。
式典までの半端な時間を、リンは式典の行われる広間ではなく、程近い中庭で過ごしていた。
広間の中では大勢招かれている他の賓客たちが口々に主役の二人の噂話で盛り上がっている。
若い国王の美男子ぶりや、そのくせ浮いた...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第2話】
azur@低空飛行中
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慣れない異国の道を辿りながら、レンは満足げな面持ちだった。
活気のある市場に並べられた食べ物はどれも新鮮で質も良い。
いくつかの露天を回った結果、綺麗な林檎が手に入った。リンのための、今日のおやつになるだろう。
仮宿ではあまり凝ったものは作れないが、これなら手を掛けなくても十分に美味しい。
何を作ろ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第1話】
azur@低空飛行中
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乗り合いの馬車を拾って、次に連れて来られたのは大きな広場だった。
中央に芝生を設け、いくつかの噴水が点在し、そこらに鳩が群れている。のどかな眺めだ。
「あれは?」
広場の奥まった所に、一際目立つ豪華な佇まいの建物がそびえている。
「あれはこの街で一番大きな劇場よ。ところでメイコ、教会ミサ曲の安息の祈...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第0話】後編
azur@低空飛行中
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雨が落ちる
滑り堕ちる
貴方眺め
独り笑う
胸のナイフ
不思議そうな
顔で見つめ
崩れ墜ちた
籠の中の私に
歌う悦びくれた...「殺人ロイド。」の歌詞
Kamiyanagi
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連れて来られたのは、既製服を扱う店だった。
服など自分で縫うのが当たり前のメイコには全く馴染みがないが、ミクによればこれらは最近になって出来始めたタイプの店で、従来通りに一から服の仕立てもするが、もう少し安価に既に仕立てた服を置いてもいるのだという。
「ほら入って、メイコ」
「ちょ、ちょっと・・・」...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第0話】中編
azur@低空飛行中
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どこの国も港の歌は、いつも底抜けに陽気なものだ。
人と物が行き交う賑やかな港の喧騒を眺めながら、三日ぶりに降り立った陸の上に一息付いていたメイコの耳に、またあの聴きなれた歌が聞こえてきた。またひとつ新しい船が着いたらしい。
積荷の上げ下ろしに合わせてテンポよく聞こえてくる船乗り達の荒っぽく陽気な歌声...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第0話】前編
azur@低空飛行中
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マスターの機嫌が、悪いのです。
【ねぎみくふるこーす☆ 】
『マスター。マスター』
ふてくされたその背中にぎゅっと抱きつく。
広くて大きな背中。
抱きつきやすくて、とってもすき。
『ごはんですよー。早く食べましょう!』
今日のご飯は自信作っ!
マスター喜んでくれるかな?
「今日の、メ...【小説・初音ミク】ねぎみくふるこーす☆
ひなたさくら
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マ、マスター。どうしましょう?
【はずれ調子☆こみゅにけーしょん 】
マスターがくれた初めての歌。
嬉しくて嬉しくて、デスクトップ中をかけまわって。
ようやく流れてきた音符を。
「しまった……うちのミクあほの子だった」
…………飲み込んじゃいました。
声を出しても、変な音ばかり。
マス...【小説・初音ミク】 はずれ調子☆こみゅにけーしょん
ひなたさくら
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おかえりなさい、マスター。
【ここからでられたら。 】
私の今日はここから始まる。
少し疲れた顔をしたマスター。
帰ってきて、家には一人だから。
冷蔵庫からお肉を出して、賞味期限を確認して。
簡単に野菜といためて、運んで。
その間に、お風呂を出して、テレビを見ながら食べる。
ここからで...【小説・初音ミク】 ここからでられたら。
ひなたさくら
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半円形の空間の中央に、一本の柱が天井に届くほどの高さでそびえたっている。
良く見ると、その柱は透明なガラスで出来ていて、何本ものケーブルが、その柱と見間違う培養槽につながっていった。不思議な液体で満たされた培養槽の中には、一人の少女が宙に浮くようにして眠っている。
膝下まで届く、青緑色の長い髪...二次創作 素人が小説を書いてみた 「目覚め」
是久楽 旧HidetoCMk2
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翌朝、ジーンは《村》の倉庫から拝借してきた食料を手に小屋へと向かった。
何気なく、ジーンは小屋の扉に手をかけたとき。
「……ん?」
微かに、しかし確かに小屋の中から歌が聴こえた。ジーンは蹴破るように扉を開ける。
「くぉらぁ! 歌っちゃダメだと言ったろ!」
「ひゃうっ!」
文字通りぴょんと飛び...【小説】 旅人(下)
遊馬
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歩いている。歩き続けている。
旅人が独り、荒れ野を歩き続けている。
歌っている。歌い続けている。
荒野を歩きながら、歌い続けている。
流れる雲だけが聴いている。
旅人の視線の先、《森》が見える。《森》のそばには《村》があるだろうか。
誰かが住んでいるだろうか。まだ見知らぬ誰かと逢えるだ...【小説】 旅人(上)
遊馬
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8月27日
暑い。
とにかく、テントが作る影の中から出たくないと、レンは思っていた。昨日の大会の優勝慰労会だかなんだか知らないが、できるだけ放っておいて欲しい。そっとしておいて欲しい。それなのに、何で自分はこんな所で女どものビーチバレーなんか見ているんだ?泳ぎたいわけでもないし、眠ろうとしても暑...【小説 桜ファンタジア】 慰労会
petnoka
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着信。
カイトからだ。
「なあに? … うん、空いてるよ … えー?ゲントウ?どこいくつもり? … あ、そう… うん、取り敢えず期待しとく(笑) … うん、じゃ6時にね」
厳冬モードって、ついこないだ冬物仕舞ったばかりなのに。一番あったかなのは…ロングダウンか。はぁ。どこへ連れて行くつもりなんだろな...【小説】 Primary star 〔for じゅるコラボ〕
petnoka
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8月26日
号砲が鳴った。
スタートブロックはまずまずの感触。
緊張せず自然に重心を移動できたようだ。
手足のリズムも良い感じ。いける。
上体の起こしもうまくいった。
空が見えてきた。
ゴール方向が太陽か。少し眩しいな。
第三コーナーのカーブが気持ちいい。
もうアウトコーナーの連中も抜き去った。...【小説 桜ファンタジア】 200m
petnoka
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3月17日
翌日はクリプトン学園中等部・初等部の卒業式で、朝のうちからその準備に全職員が慌ただしく奔走していたが、それもやがて静かになった。
日没。
職員たちは銘々、ライトアップされているキャンパス中央の桜に集まってきた。
「いよいよ明日ですね」
「あの子たちとも明日限りなんですね」
膨らんだ桜の蕾...【小説 桜ファンタジア】 桜ファンタジア
petnoka
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4月15日
程よい風で学園内外のソメイヨシノの花びらが舞っている。そろそろ桜花の季節も終わりのようだ。
女子だけの特別授業が終わって、ハク先生が数名の生徒に囲まれお喋りをしている。ネルはといえば、終わるや否や窓を開けてケータイのカメラを起動していた。男子がグラウンドでサッカーをしていたのだ。
...【小説 桜ファンタジア】 オトメゴコロに愛の手を
petnoka
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4月5日
清明な朝。
クリプトン学園の校門へとつづく坂道の桜並木は、そこを通る者の目をしばし留めさせるに充分なくらいに咲き誇っているが、その桜に目もくれず必死に坂道を駆け上がる、中学生用の鞄を背負った少年と少女がいた。
走りながら、遅刻しそうになっている原因をお互いなすり合っている。
「…...【小説 桜ファンタジア】 今ここに始まる
petnoka
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5月10日
昼休み、校舎の屋上。
屋上では、特に友達との約束事がなければ、レンはたいがいキャンパス中央の桜を眺めている。桜から最も近い場所を定位置として。
レンは腕組みをした状態で120cmほどの高さのコンクリートフェンスの上に腕を預け、顎を交差した腕の上に乗せて桜を眺めているのが好きだ。もうすっ...【小説 桜ファンタジア】 届きそうにない想い
petnoka