タグ「鏡音リン」のついた投稿作品一覧(153)
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18.逃避行
待った。ちょっと待った、レンカちゃん。
現在十八歳のレンカよりも二回りも年上のはずのヴァシリスの頭の中が、真っ白であった。
リントを隠さねばならない。それは解る。踏み込んできた連中の目を何とかひきつけなければならない。それも解る。
……しかしなぜキスか?!
扉を破られた音がし...滄海のPygmalion 18.逃避行
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17.覚悟
「本当は、リントとレンカちゃん、二人同時に見せるべきなのだろうけどね」
ヴァシリスが、自身の机の引き出しを開け、ある汚れた袋を取り出した。
「これが、君のご両親の遺品だよ」
初めて見る両親の遺品、そして「遺品」という生々しい言葉に、リントの手が震えた。
「開けてもいい?」
「全部、し...滄海のPygmalion 17.覚悟
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16.正義と過去
市庁舎の掲示板にリント捜索のポスターが貼り出された半時後には、近所の者の手によってヴァシリスの博物館の扉が叩かれていた。
「ヴァシリスさん! いるかね!」
ちょうどレンカは仕事に出ており、博物館ではいつものようにリントとヴァシリスが二人で資料の整理をしていた。
ヴァシリスは急...滄海のPygmalion 16.正義と過去
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15.発覚
ルカの仕事は、部隊長の秘書といっても、基本的には事務官である。島の外から情報を受け、部隊長に報告をし、部隊と島の市長らとの連携を取り、さまざまな調整を行うことが仕事であった。
島の外の主な情報源、新聞では、連日のように大陸の国と奥の国の戦況が報道されている。
新聞は大陸の国で発行さ...滄海のPygmalion 15.発覚
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14.有事の日常
島に大陸の国の駐留部隊が来て半月が経った。市庁舎に掲げられた旗の色が、島の緑から同盟旗の赤に変わっても、島民の生活はいつものようにすぎていった。
変わったことといえば、大陸の国の駐留部隊が、砂浜で上陸訓練と防衛訓練を行うようになったこと、海岸の山沿いに、空を向いた大砲が設置され...滄海のPygmalion 14.有事の日常
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13.再会
まだ夜が明けやらぬ中、ルカはひとりで岬への道を辿っていた。本日は一日非番である。島での行動は、ルカたち大陸の国の駐留部隊は制限されていなかった。
有事のたびに駐留軍は島に降り立ち、ことが終われば去っていく。それは数年おきに繰り返されることもあれば、長い間が空くこともある。今回のように...滄海のPygmaliion 13.再会
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12.秘密
ヴァシリスの決断は早かった。リントをかくまうことは彼の中でゆるぎない決定事項だったが、島民みな知り合いのような島で、人ひとりを隠すことが難しいことを彼は気づいていた。そして、島民はいざというときには結束するが、その状態に至るまで、すべての人が同じ考えを持つとは限らない。
「いざというと...滄海のPygmalion 12.秘密
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11.白皙の頬をした兵隊
島でただ一つの博物館の、学芸員を務めるヴァシリス・アンドロスは、島の人間ではない。大陸の国から、島の歴史の魅力に惹かれてやってきた、移住者だった。
家族はおらず、ただひとりで博物館のとなりに小さな部屋を借りて暮らしている。両親を十歳のころに亡くしてからそれぞれの進路を見...滄海のPygmalion 11.白皙の頬をした兵隊
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10.黄色の郵便飛行機
島の空に双発機のプロペラ音が響いた。
鮮やかな黄色に塗られた飛行機が、島の広場をぐるりと旋回した。
広場で遊んでいた子供たちが空を見上げ、わあっとはしゃいだ声を上げた。
「レンカちゃーん! レンカちゃーん!! リントが帰ってきたよー!」
広場の一角から狭い石段を駆け上...滄海のPygmalion 10.黄色の郵便飛行機
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9.四年後 ~レンカとリント~
レンカが十八歳となった夏、十三の歳から始めていた彼女の岬の女神像にまつわる探究活動はあっさりと幕を下ろした。
ある嵐の日、女神像が倒れ、その台座の下から、建てられた当時の石版が見つかったのだ。
『国の守りとして、ここに像を建てる』『岬の端、大陸勢力への見張りとして...滄海のPygmalion 9.4年後 ~レンカとリント~
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8.間章
「ねーえ。レンカおばあちゃん」
岬の端のサンダルの像の前に、老人と少女は並んですわり、真っ青に澄み渡る海を眺めていた。
「おばあちゃんは、ここから海に飛び込んだの?」
孫娘がこわごわと、這って崖ににじりより、ひゃっとすぐに悲鳴をあげて戻ってくる。
三階建ての建物くらいの高さはあるよう...滄海のPygmalion 8.間章
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7.石像の心
「冷たく白い石像、面影にそっと手が触れるとき」
白い女神像が、真っ青な海に向かって手を広げる隣で、白い頬をしたルカの唇が小さく動く。
「朱に染まり色づく頬、あなたに逢いたい……」
真昼の、海から吹く風が、ルカの唇にそっとくちづけては陸へと飛び去っていく。
ルカは、昼食を取らずに博...滄海のPygmalion 7.石像の心
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6.ルカの家庭
島の昼間。夏も近づくこの頃の太陽は、眩しく高い。白い石畳と粘度の壁が、鮮やかに光を反射している。時折家々の軒先に日よけとしてしつらえられた葡萄の棚が木陰を落とす中、ルカは濃い影を映しながら歩いていた。
「冷たく白い石像、面影にそっと、手が触れるとき……」
うつむき歩くルカの桃色の...滄海のPygmalion 6.ルカの家庭
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5.歴史と伝説とレンカ
「歴史と伝説は違うよ」
レンカにそう教えてくれたのは、この島のただひとりの学芸員のヒゲさんことヴァシリス・アンドロスだ。
「歴史は事実で、伝説は文化だ。歴史は事実だから、ただひとつしかなく、変わらない。しかし伝説は、人の数だけ生まれるといってもよい」
* ...滄海のPygmalion 5.歴史と伝説とレンカ
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4.女神像とルカ
今日も岬日和だった。「島の名物は、景色!」。その謳い文句の通りに、リントとレンカは、ルカを岬に連れてきた。
ひとしきり女神自慢、伝説への考察を披露したあと、リントは女神の足元におさまり、レンカはいつものように海へと向かっていった。レンカはルカにも海に入らないかと誘ったが、ルカは...滄海のPygmalion 4.女神像とルカ
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3.夕焼け色の髪の少女・後編
ルカがレンカの拾い集めた石片を弾き飛ばしたことに、リントは凍った。あまつさえ、彼女はその石片の一つを掴んで投げようとしている。
「あいつ! やっていいことと悪いことが……! レンカ! 落ち着けよ?!」
リントが、ルカを押さえるかレンカを心配するか迷った隙に、レンカが...滄海のPygmalion 3.夕焼け色の髪の少女・後編
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3.夕焼け色の髪の少女・前編
岬から白い石の道をたどって下り、広がる葡萄畑を通り過ぎ、再び街のある高台へと向っていく。この島の大地と同じ色で作られた石粘土と漆喰の壁が立ち並ぶ街は、訪れたばかりの青い夕闇に抱かれて、にぎやかな喧騒を見せていた。
「しまった! 明日は休日だった!」
「ヒゲさん、まだ仕...滄海のPygmalion 3.夕焼け色の髪の少女・前編
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2.島の双子 リントとレンカ
その女神像は、岬の先に、真っ青な海に向って腕を広げて立っていた。
大きさは、ちょうど大人の平均身長より少々高いくらいか。真っ白な大理石で出来た石像は、海から吹く潮風にもその肌を曇らせることなく、毅然として立っていた。
その女神像の足元に、今、一人の少年が座っている...小説『滄海のPygmalion』 2.島の双子 リントとレンカ
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【歌詞】桜色スナフキン
花の舞い散る 春の丘で
あなたの夢を 見つけました
そっと両手で 掬(すく)ってみたら
ふわりと空気に とけました
淡く染まった 花の中に
そっと残った 雪の香り
頬に両手を 当ててみたら
あなたのぬくもり 辿(たど)るように
優しい笑顔に なれるでしょうか?...【歌詞】桜色スナフキン
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66.ゆすらうめの花 ~白ノ娘、ハクの最終回~
初夏。緑の国が一年で一番輝く季節。
ハクは、緑の王都の港に近い、海の見える丘の上にいた。
「ミクさま。ネルちゃん。……来たよ」
ミクの墓に植えられた木は、美しい若葉を輝かせており、その下に寄り添うネルの墓には、ゆすらうめの樹が植えられていた。ユス...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 66.ゆすらうめの花 ~白ノ娘、ハクの最終回~
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65.再び、海辺の町にて ~リン~
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少しだけブリオッシュが上手く焼けるようになったころ、ハクは、リンをもとの緑の王都の酒場まで送ってくれた。
酒場の夫婦は心配のあまり、帰ってきたリンを怒りまくり、そして、玄関の扉を開けて抱きしめてくれた。
「君は王女、僕...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 65.再び、海辺の町にて ~リン~
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64.リグレット・メッセージ
「レン……!」
暁色の髪の青年が、飛びこんできた彼女を、立ち上がってしっかりと抱きとめた。
青年の腕の中で、リンの息を吸い込む音が、浜辺いっぱいに響いた。
「……背、伸びたね」
「うん」
「……声、変わったね」
「うん」
「ねぇ、レン」
「うん?」...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 64.リグレット・メッセージ
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63.輝きを留める者
おだやかな波が、朝の浜辺を寄せては返していく。同じ動きをくりかえしてはいるが、同じ波は二度とは来ない。
「……前は、蹴られたのに」
「今は、そんなことしないよ」
男が、手に握った短剣の柄を向けて、ハクにそれを返す。光の中で見ると刃は少し欠けていた。ハクの命を、暴徒から救っ...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 63.輝きを留める者
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62.暁
刃を前に、リンの唇がつぶやいた。
「ただの娘として生きてしまって、ごめんなさい。わたしは、悪ノ娘なのに」
……わたしに斬られたホルストやシャグナは、痛かっただろうか。刃を向けられたメイコは、怖かっただろうか。そして、死に追いやったミクやレンは、苦しかっただろうか。
ハクの刃の狙いが、わ...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 62.暁
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61.白ノ娘、悪ノ娘
星明りを頼りに、ハクはリンを散々探した。
そしてついに、まだ夜の明けきらぬ青い闇の中で、ハクは浜辺にたたずむリンを発見した。
「リン……! やっと見つけた……!」
一瞬子供たちに囲まれて笑顔をみせるリンが脳裏をよぎったが、腹の底から燃え上がる恨みと怒りの炎がそれを吹き消...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 61.白ノ娘、悪ノ娘
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60.真実と葛藤とミクの短剣
ハクは走っていた。真っ暗な夜道の石畳を、リンを追って走っていた。
戸口から駆け去る際にちらりと見えたリンの向かった先は、海の方角である。
「あの娘、あの娘、あの娘……! 」
ハクの奥歯が、ぎりりと噛みしめられる。
「あの娘、本当に、『女王リン』だ……!」
ハクの...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 60.真実と葛藤とミクの短剣
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59.巡り音の青年
ハクー、出発するよー、と、外から叫ぶリュイの声がする。
ハクは教会の脇の宿坊の、二階にある自室で、町にとまるための荷物をまとめていた。
替えの服と日用品の準備はとっくに終わっているのだが、ハクの手はあるものの前で荷物に加えるか否かを迷っている。
それは、五年前、ミクがハク...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 59.巡り音の青年
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58.ヨワネの今、ハクの今
ハクの心配に反して、リンと名乗った少女はすんなりと子供たちの輪になじんだ。
「リン! これ、あたしの刺繍だよ! きれいでしょう!」
「あー! リュイはすぐ得意な柄ばっかり見せるんだから! ハクさんには、別の柄の練習もしなさいって言われているのに」
「自分の最高の作品を見...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 58.ヨワネの今、ハクの今
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57.教会の少女
リンの目の前に、白い髪の女が居た。
そして、たくさんの子供たちが、リンをぐるりと囲んでいた。
リンの目の前には、温かな葉野菜と根野菜を煮込んだスープ、そして穀物と豆の粥がある。
食事が乗っているのは、質素な長四角のテーブルだった。しかし、大きい。長四角の卓が二つ並べられ、十...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 57.教会の少女
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56.五年後、海辺の町にて
―五年後―
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“まさに彼女は悪の娘”
初春の宵。柔らかな夕闇が海辺の町を包む頃、灯りの燈った酒場に、一日の仕事を終えた男たちが集まる。談笑とともに、いつものようにがなる歌が響く。
“昔々あるところに、悪逆非道の王国の、頂点に君臨...悪ノ娘と呼ばれた娘【悪ノ二次・小説】 56. 五年後、海辺の町にて