タグ「優しい傷跡」のついた投稿作品一覧(66)
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あー、どうしよう。
いきなり道は二つに分かれてしまった。
困った。
地図なんてもっていない。
片方は真っ赤な道。
もう一方は普通の砂利道。
腕を組んで突っ立っていると、頭上から声がした。
それは木の上からだった。
「きゃvvきゃvv」
「わー、わー」...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第09話「クローバーのアリス」
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あるところに、小さな夢がありました。
誰が見たのかわからない、
それは本当に小さな夢でした。
小さな夢は思いました。
このまま消えていくのはいやだ。
どうすれば、
人に僕を見てもらえるだろう。
小さな夢は考えて考えて、
そしてついに思いつきました。
人間を自分の中に迷い込ませて、...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第08話「アリスの物語」
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狂ったように、帯人はアイスピックをリンにむけて振りかざした。
リンはとっさに包丁でそれを防ぐ。
しかし、帯人のほうが圧倒的に強かった。
数歩、リンは下がって体勢を立て直す。
その瞬間、はじかれたように帯人が私の手を引いて走り出した。
灰猫も先頭を走る。
「雪子、怪我は!?」
「大丈夫。服が切れただけ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第07話「みんなの声」
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鏡音レンがふと、こちらを見る。
「…あなたは生存者? それとも、リンちゃんの夢?」
首を横に振る。
このとき、初めてレンの声を聞いた。
「自分の意思。俺はいたいから、ここにいる。
リンを一人にできない。…それにここなら、彼女は動ける。
自由に歩けるし、笑えるから」
自虐めいた笑みをむける彼。
そ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第06話「絶対に助けるから!」
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ハァ、ハァ、ハァ。
涙がとまらなかった。
怖くて足が震えた。でも、とにかく前へ。
足を止めたら、駄目だと思った。死んでしまうのは確かだ。
ほんと。…どうしてこうなっちゃったんだろう。
それは数分前。
私と帯人そして灰猫が、鏡音リンと対峙したときのことだった。
血だらけのハクちゃんとネルちゃんを紹介し...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第05話「彼女の悲劇」
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光の中に包まれて数秒後、私たちは地面に足をつけた。
まるで霧が晴れていくように、まぶしい光は消えていく。
やっとしっかりとした視覚を取り戻したとき、私はハッとした。
「学校だ」
そこは、クリプト学園だった。
窓の外には満月が顔を出している。
どうやら夜のようだ。
電気が一つもついていない学校は、月明...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第04話「とある少女の庭」
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重たいまぶた。
まだ寝ていたい。すごく眠たい。
けれど、それじゃあダメだと頭の中の理性が訴える。
私はゆっくりと目を開けた。
そこは図書室ではなかった。
赤と黄色を基調としたおしゃれな部屋で、西洋のオブジェやアンティークな
小物が並んでいる。
蓄音機から流れるジャズが耳に優しい。
目の前におかれた紅...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第03話「夢の世界」
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かちかちかち。
そんな音を立てながら、懐中時計は青年の手の中で動いている。
青年はその懐中時計を差し出して、人差し指でかちゃりと開けた。
そこには、ひび割れた文字盤があった。
「少々、お時間宜しいでしょうか」
「…あなたはいったい…」
なぜか、目の前にいる《人》が人ではない気がした。
スーツの青年の...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第02話「灰色の猫」
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翌日。
雪子と帯人は一緒に学校へ行った。
その日は休日だったから、私服で入校できた。
休日だというのに、人々は多く図書館を利用していた。
私の背の三倍もある本棚に、ぎっしりと敷き詰められた本の数々。
貴重なものまであるらしいけど、あんまり詳しくない。
彼は目をぐるぐるさせていた。
思わず笑ってしまっ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第01話「伝言」
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その日は雨だった。
雪子と帯人は、いつものようにコンビニで買い物をして帰っていた。
傘にはじかれた雨が単調なリズムを刻む。
その音はとても好きだ。
でも、帯人は「雨は苦手」だと言う。
…おそらく、あの日も雨だったから。
受け入れたはずの過去。
でも、どうしても心にわずかな傷を与える。
ときどき疼くそ...優しい傷跡-魔法の音楽時計- 第00話「プロローグ」
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彼女の手は小さかった。
まるで子どものようで、愛らしくて。
僕はその手をぎゅっと握った。
手袋越しに感じたぬくもりが、僕の冷たい手に伝わる。
―ここちよいのに、なぜかせつなかった。
クリスマスツリーまで、あと少し。
僕らはゆっくり歩いた。
ここまで来ると、彼女も感づいてしまったらしい。
そしたら、余...優しい傷跡 番外編3「ずっとずっと、」
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優しい傷跡 ロゴ
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翌日。
僕は食事の後、「外へ出よう」と彼女を誘った。
彼女はいつになく長い時間をかけて服を選んでいたみたいで、
約束の時間よりけっきょく五分ほど遅刻してしまった。
でも、今日の君、いつにもまして可愛いよ。
「あ、雪―」
「…本当だ」
神様、気を遣ってくれたのかな…。
見上げれば、夜空さえ彩るイルミネ...優しい傷跡 番外編2「このまま、そのまま―」
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某日。特務課にて―。
「…つまり、君は僕にアドバイスを求めてここに来たってわけ?」
「……はい」
僕はこの日、ある用があって特務課を訪れた。
警視庁特務課はけっこう独立した組織らしくて、
僕が突然訪ねたというのに、すんなり僕を部屋へ招き入れてくれた。
メイコさんから聞いた。
カイトさんも実はボーカロ...優しい傷跡 番外編1「決戦は明日!」
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旧館の火事から、一週間が経った。
そんなある日。
雪子と帯人は休日を利用して、ある場所へむかっていた。
「帯人ぉー」
「…ん?」
「口の周りに、アイスクリーム。ついてる」
「……あ」
帯人はそのまま袖で拭おうとするものだから、
雪子は慌ててハンカチを取りだした。
「ちょっと、顔貸して」...優しい傷跡 第21話「優しい傷跡」
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開いた非常口。
帯人に抱き上げられた雪子は、キクの袖を掴む。
「行こうよ。キクちゃん」
キクはまた泣いていた。
「雪子ちゃん。ありがとう」
「え?」
きょとんとする雪子。その表情はとても可愛かった。
「雪子ちゃんと会えて、本当によかった」
「なに言ってるの…? ほら、早く行かないとッ!!」
「ごめん...優しい傷跡 第20話「もっと はやく あなたに」
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本当はね。
最初から、わかってたの。
自分のやってることの異常性と、無意味さが―。
でも、自分でもこの思いを制御できなくて
殺人衝動だけが増幅されていって
どうしようもなくて
止まらなくて
――泣きたかったの。
斬りつけ合うなかで、キクの動きが鈍くなった。
その一瞬を帯人は見逃さなかった。...優しい傷跡 第19話「なみだ」
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予想以上に火の勢いが強い。
煙が充満してきて、酸素がどんどん奪われていく。
息苦しい―。
ちらりと帯人を見た。
彼は苦しそうな顔をいていたけれど、息苦しいという感じではなさそうだ。
ボーカロイドには、どうやら酸素は必要ないらしい。
気づかれないようにしよう。
気を遣ってくれたら、なんか、情けないから...優しい傷跡 第18話「僕らの意志と交差する願い」
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キクの記憶の断片が、メイコの脳に流れ込む。
それはあまりにも悲しくて―。
「どいてッ!」
キクが力一杯メイコを蹴り飛ばした。
もろにくらったメイコは痛みのあまり、うずくまった。
キクはゆっくりと立ち上がる。
「さよなら」
「ま、待ちな、さい…ッ!」
「…」
メイコの言葉を返さず、キクは静かに窓辺に近...優しい傷跡 第17話「今度は私が護ってあげる」
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マスターは、私に優しくしてくれた。
キクという可愛い名前をくれた。
大好きだった。
寝付けない私のために、彼はいつもホットミルクを作ってくれた。
コップに注がれた暖かなホットミルクはとてもおいしかった。
彼は喜ぶ私を見て、よく笑っていた。
その笑顔が大好きだった。
歌を上手く歌えない私を責めることな...優しい傷跡 第16話「記憶」
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ベランダから飛び降りた帯人と雪子を見届けて、メイコはゆっくりと
立ち上がった。
キクはベランダを見つめたまま、じっとしている。
その口だけは動き続けていて、まるでなにかを唱えているようだった。
「残念だったわね。……あんたの相手でもしてあげる」
そう言うと、ぼんやりとした瞳をこちらにむけるキク。
「...優しい傷跡 第15話「本音が知りたいから」
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「動くなッ!」
銃声とともに、振り上げられていた斧は弾かれて、
部屋の隅に転がっていった。
声の主は、メイコ姉さんだった。
銃を構えたまま、キクをにらみつける。
「次は腕が吹っ飛ぶわよ」
「ふっふふっふっふふ。脅しのつもりですかー?」
キクはメイコを見て笑う。
メイコはいらだちのあまり顔を歪ませる。...優しい傷跡 第14話「僕が必ず、護りますから」
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「危ないッ!」
帯人はとっさに私をコートで包み込む。
そのおかげで私は降り注ぐガラス片で怪我をすることはなかった。
でも、コートの隙間からたたずむ少女の姿がしっかりと見えた。
「なんで?なんでよ」
彼女自身、ガラス片によって腕を切っていた。
不凍液がまるで血のように腕を伝っている。
「ありえないでし...優しい傷跡 第13話「わたしの決意」
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「ぼくは、あなたのことを愛しています」
そう言った、彼の瞳は虚ろだった。
けれど温もりのある声だった。
だから、私はそっと手を伸ばして彼の頬をなでた。
私の行為に彼は驚いているみたいだったけど。
「帯人」
「……」
帯人の頬は暖かい。
ボーカロイドと人の境目なんて、ずっと昔から、ないのかもしれないね...優しい傷跡 第12話「家族」
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窓から差し込む光が鬱陶しかった。
すごく、すごく、嫌だった。
僕を見て、マスターは脅えた顔をした。
ちょっと震えていた。
僕はそんなマスターに手を伸ばした。
耳もとから、あごのラインをなぞって、唇にそっと触れた。
僕の唇とは全然違った。
柔らかいんだね、マスターの唇。
ちょっとだけ、泣きそうになった...優しい傷跡 第11話「告白」
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警視庁特務課。
急増したボーカロイドに関連する事件を専門に扱っている。
特務課の部屋に戻ってみると、コーヒー片手にカイトが待っていた。
カイトという男は、仕事仲間でべつに彼氏ではない。
腐れ縁というか、なんというか。…とにかくバカには違いない。
「なに?急に呼び出して…」
メイコの帰りを待ちわびてい...優しい傷跡 第10話「少女の現実逃避」
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その後、数分メイコ姉さんと話した後、彼女は呼び出されて行ってしまった。
彼女は「元気な顔が見れて安心したわ」って言ってこの場を後にした。
私は彼女の後ろ姿を見送った後、
別室に押し込んでいた帯人のもとへむかおうとした。
そのはずだった。
別室への扉のドアノブを握ったとき、すごく不安な気持ちになった。...優しい傷跡 第09話「壊れ出す」
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我が家の帯人君
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この状況を説明するのに小一時間。
帯人を別室に押し込んで、メイコ姉さんにこれまでのことを話した。
傷だらけで倒れていたこと。
それを拾ったこと。
帯人のマスターになったこと。
そしたら、ものすごく懐かれてしまったこと。
すべてを話し終えると、メイコ姉さんは頭を抱えているようだ。
「つまり、雪子はあっ...優しい傷跡 第08話「エラー、崩れ出す音」
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今日は日曜日。
だから目覚ましだって黙り込んでいるし、
朝日だって、無視しても怒りはしない。
いつまでも寝ていられる♪
最高だね!
…って、はずなのに。
…………めちゃくちゃ寝苦しい。
私は重いまぶたをゆっくりと開いた。
「んぅ~…」
ぼやけた視界。...優しい傷跡 第07話「おはようございます」