ブクマつながり
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連れて来られたのは、既製服を扱う店だった。
服など自分で縫うのが当たり前のメイコには全く馴染みがないが、ミクによればこれらは最近になって出来始めたタイプの店で、従来通りに一から服の仕立てもするが、もう少し安価に既に仕立てた服を置いてもいるのだという。
「ほら入って、メイコ」
「ちょ、ちょっと・・・」...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第0話】中編
azur@低空飛行中
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「随分と回りくどい真似をされる」
夜の闇に沈む部屋に、ひっそりとした声が落ちた。
室内の明かりはない。窓の外、時折雲間から顔を出す微かな月明かりだけが、僅かな光源だった。
「何のことだ?」
静かな声を返す部屋の主は、暗闇を気に止める様子もない。
暗い色の髪は周囲の闇に溶け込んで、その輪郭も定かではな...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第12話】
azur@低空飛行中
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もう間もなく結婚式が始まる。
ここ、シンセシスの若き国王と、その王妃となる人の結婚式だ。
式典までの半端な時間を、リンは式典の行われる広間ではなく、程近い中庭で過ごしていた。
広間の中では大勢招かれている他の賓客たちが口々に主役の二人の噂話で盛り上がっている。
若い国王の美男子ぶりや、そのくせ浮いた...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第2話】
azur@低空飛行中
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おぼつかない足取りで自室へとたどり着く。
「ミク様?どうなさいました」
扉を押し開き、出迎えてくれた侍女の優しく気遣う声に、ミクは糸が切れたようにその場に座り込んだ。
「ミク様!?」
「ローラ・・・お兄様が」
どこか呆然としたままの声音に、駆け寄った侍女の顔に動揺が浮いた。既にどこからか知らせを聞き...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第10話】中編
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乗り合いの馬車を拾って、次に連れて来られたのは大きな広場だった。
中央に芝生を設け、いくつかの噴水が点在し、そこらに鳩が群れている。のどかな眺めだ。
「あれは?」
広場の奥まった所に、一際目立つ豪華な佇まいの建物がそびえている。
「あれはこの街で一番大きな劇場よ。ところでメイコ、教会ミサ曲の安息の祈...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第0話】後編
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街も寝静まった夜中、ミクはひとり城を抜け出した。
どこか行きたい場所があるわけではない、ただ部屋でじっと考え事をしていることに耐えられなくなっただけだ。
外套に身を隠し、何かに追われるように人気の無い街を当て所なくさ迷う。
やがて、ひとつの場所でミクはその足を止めた。
「ここは・・・」
港と街を繋ぐ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第8話】中編
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「お兄様」
軽いノックの音に続けて、少女は扉の隙間から室内を覗きこんだ。
「お忙しい?今入ったら、お邪魔かしら」
扉から半分だけ顔を出し、遠慮がちに声をかける。
その声に、調べ物のために自室に篭もっていた彼女の兄は、手にしていた書物から顔を上げた。
いつも穏やかな蒼い瞳がこちらを向く。
「そんなこと...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第14話】後編
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「お兄様が・・・、クリピアの王女に求婚・・・」
届いたばかりの知らせを、ミクは緩慢に繰り返した。
簡単なはずの音の羅列が上滑りして、まるで頭の中に入ってこない。
全身をすっぽりと薄い膜に覆われて、周りの全てが遮断されてしまったかのようだ。
目の前で安堵に沸く閣僚達の姿さえ、ひどく遠い景色に思える。
...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第10話】前編
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人知れず保たれた平穏に、火種を投げ込んだのはひとつの噂だった。
シンセシス国王妃の命を狙ったのはクリピアの手の者である、というものだ。
密かに囁かれるこの噂を知った王妃の父であるボカリア大公がクリピア王女へことの真偽を問い、それが真実ならば速やかに犯人を差し出し、シンセシス国王と王妃に詫びよと告げた...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第8話】前編
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錆びついた門を潜った先、狭い中庭を囲んで、その小さな屋敷は建っていた。
外壁の半分を蔦が覆っている。
庭も建物も、最低限の手入れはされているようだが、どこか寂れた印象を漂わせていた。
「ここは・・・」
先を行く王女が振り返った。
「母の生家よ。私が生まれた場所でもあるわ」
「誰も住んでいないのですか...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第13話】後編
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「街が見たい?」
怪訝な顔で王女は聞き返した。
「街って、城下のこと? そんなものを見て、何が楽しいの?」
「その土地にあった生活のための優れた工夫というのは、私の国にとっても勉強になりますから。それに、良く出来た建築や都市の景観というのは、それだけで美しいものですよ」
また訳のわからないことを言う...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第13話】前編
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波音を背に橋を渡る。
あんなに追いかけて来るようだった波音は、今は穏やかに包み込むようだ。
大通りに出たところで、ミクは人気の無い通りにひとり佇む人影に気付いた。
供も連れない姿の、金髪の青年に目を見張る。
「どうして、ここに?」
驚く少女に、男は呆れたように肩を落とした。
「この間、恐ろしい目にあ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第8話】後編
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扉の開く音に、メイコは居住まいを正した。
「待たせて申し訳ない」
「いえ・・・、こちらこそ、こんな所まで押しかけてすみません」
立ち上がりかけたメイコを片手で制し、部屋に入ってきた青年は小さなテーブルを挟んだ向かいの椅子に腰を下ろした。貴族らしい鷹揚な振る舞いだが、幾分乱れた青い髪や精彩を欠く表情に...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第6話】中編
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リンは唖然と目の前の光景を見つめた。
自慢の美しい王宮の広間に、今日になって忽然と現れた物の山が、洪水の如く溢れている。
大理石の床を無遠慮に覆い尽くす、色取り取りの布地や服、絨毯や織物、眩いばかりの金銀細工、置物、花瓶や茶器、積みあがった木箱に気圧されて、天井の壁画さえも霞んでいる。
一体、この王...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第11話】前編
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活気付く大通りで、レンはひとり重い溜息をついた。
気に掛かるのは勿論リンのことだ。
あれから一晩の時間をおいて一先ず怒りは収まったものの、朝からずっと沈んだ様子で部屋に篭もったままなのだ。
朝も昼も、今ひとつ食の進まなかったリンのために、レンはあてもなく市場を歩いている。
「参ったな。あんまり長く時...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第5話】
azur@低空飛行中
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王宮内は騒然としていた。
謁見の間に集められた家臣らが、口々に交わす噂や考えが入り混じって、広間をざわざわと人の声が満たしている。
それを一段高い玉座から見下ろして、年若き国王は溜息をついた。
「今日集まって貰ったのは他でもない・・・――」
「城下で王妃様が何者かに襲われたというのは真実なのですか!...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第7話】前編
azur@低空飛行中
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自室の扉を閉ざすなり、彼はその場にしゃがみ込んだ。
「やられたよ。まったく役者だな、君は!」
視線を上げ、傍らで笑う少女を恨めしげに睨みつける。
「どうやって、ここに?ボカリアからは何の連絡も届いていない」
「私、ひとりでも馬にくらい乗れますわ」
「・・・王妃殿は病弱で、慣れない土地に体が合わずに臥...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第7話】中編
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夜の舞踏会の会場は、式典の行われた城の中枢とは場所を別にして、少し離れた庭園で行われた。
幾つもの篝火が照らす夜の庭園には、着飾った紳士淑女が歓談している。
その中に一際、人目を集めている二人がいた。
「レン、喉が渇いたわ」
「何か取ってきます。ワインが良いですか?紅茶?それとも果物?」
「ワインが...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第3話】前編
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街の中心を貫く大通りを馬が駆ける。
衛兵達が道の左右に人々を押し込めて、人々はその向こうで常にない事態にざわめいている。
今は丁度、夕刻前の市の経つ時間、最も街が活気付く時間だ。
通常ならばこの時間帯に通りを無理に空けさせるのは極力避けるところだが、今ばかりは彼もそれどころではなかった。
先導を務め...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第6話】前編
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広間を駆け出ると、喧騒はいっそう大きくなった。
剣戟に入り混じる悲鳴と怒号で、耳がおかしくなりそうだ。
「兵はどうしたの!?」
誰ともなく叫べば、見知った家臣の一人が駆け寄ってきて手を伸ばした。
「リン様!この国はもう落ちます。お逃げください。さあ、こちらへ!」
「待って!離して!レンがまだ帰ってき...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第24話】後編
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開け放した窓の外、遠く教会から響く三時の鐘が、昼下がりの心地よい風と共に入ってくる。
テーブルに並ぶのは、焼き立てのタルトと砂糖漬けのオレンジピール、チョコレートにミントティー。
小さな一輪挿しに飾られた可憐なミニバラに、注がれるお茶を待つ少女の唇が綻んだ。
「狩りに?」
「そうよ、準備をしておいて...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第14話】前編
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慣れない異国の道を辿りながら、レンは満足げな面持ちだった。
活気のある市場に並べられた食べ物はどれも新鮮で質も良い。
いくつかの露天を回った結果、綺麗な林檎が手に入った。リンのための、今日のおやつになるだろう。
仮宿ではあまり凝ったものは作れないが、これなら手を掛けなくても十分に美味しい。
何を作ろ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第1話】
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『私を襲ったものは間違いなく、クリピアのものです』
『噂は真実だ。王妃に謝罪の必要はない。クリピアは王妃を襲った不届き者を捕らえて、差し出すべきだ』
公式に発せられた二人の言葉は、そのままクリピアへと伝えられた。ボカリアへも同様に。
知らせは王女の耳に、そろそろ届いている頃だろう。
城内は慌しかった...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第9話】
azur@低空飛行中
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「薔薇がお好きなんですか?織物も細工物も、薔薇の意匠の入ったものをよく手に取られていましたが」
壁際に設えられたマントルピースに咲く薔薇の細工を眺めながら、青年は少女へと声を掛けた。
お茶とお茶菓子の用意が出来るまでの時間を待つために、ふたりは別の一室へと場所を移していた。
常に王女の傍に控える召使...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第11話】後編
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「あなた、私を馬鹿にしてるの?」
豪奢な玉座から、うら若き美貌の王女は冷たく相手を見下ろした。
広く天井も高い室内に、高い声が余韻を残して鈴のように響く。
壮麗な大理石の柱と贅を凝らした黄金に飾られた謁見の間に見えるのは、玉座のリンと背後に控える家臣が2名、そして目の前に跪かせた蒼い髪の青年の姿だけ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第10話】後編
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国王のそれにしては飾り気の少ない執務室で、レオンはぼんやりと過ぎていく時間を数えていた。
何をするでもなく物思いに沈むというのは、彼にしては随分と珍しい行為だ。
刻限は既に深夜に近く、物音ひとつない室内は静かだった。
王妃はとうに部屋で眠っているだろう。
深刻な話がひと段落ついたところで、やっと少女...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第7話】後編
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近付いてくる人影に、花嫁は伏せていた顔を上げた。
会話も無く寄り添う二人は、まるで美しい絵のようだが、互いを見つめるでもない視線はどこか余所余所しく、ぎこちない。
「お兄様・・・」
その声に花婿もやっとそちらに視線を向け、蒼い髪の青年の姿を認めた。
二人の男は無言で向き合い、儀礼的に会釈を交わした。...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第3話】後編
azur@低空飛行中
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目覚めは明け方近くのことだった。
小さく咳き込む呼吸に、浅いまどろみの中にいたカイザレは飛び起きた。
良く出来た人形のように身じろぎひとつしなかった少女の睫が震え、うっすらと瞼が開く。
「ミク!」
「お兄様・・・」
カイザレの呼び掛けに、かすれ気味の声が応えた。
ぼんやりと煙る碧の瞳が、まだ薄暗い部...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第6話】後編
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「何よ、あんな女!」
舞踏会から戻ってからの、リンの荒れようといったらなかった。
並ぶものなき大国の頂点に君臨する彼女にとって、他人から軽んじられるなど、屈辱以外の何者でもない。気まぐれに話し相手に選んだ青年から、すっかり存在を忘れられたことに、彼女の自尊心は傷ついていた。
その前にレンが彼女に見蕩...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第4話】
azur@低空飛行中
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人混みの中を早足に進みながら、ミクの気持ちは弾んでいた。
知り合ったばかりの友人に会いに行くからだ。
気の進まない結婚の憂鬱も、この時だけは忘れていられる。
その友人――メイコは、ミクにとって特別な友人だった。
彼女はこの国で出来た最初の友人であり、そして数多いミクの友人の中でも類を見ない人だった。...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【幕間】
azur@低空飛行中
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束の間、和んだ空気を破ったのは、慌しい足音だった。
「怖れながら、申し上げます」
扉の外から響いた兵士の声に、辺りの空気が一気に張り詰める。
「入れ」
入室した兵の報告を聞いていたレオンが、ふと肩から力を抜いた。
緊張気味に様子を見ていたミクも、それに胸を撫で下ろした。
最も懸念する事態、小康状態を...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第21話】中編
azur@低空飛行中
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「指輪を返してくれないかな」
そう言った男の顔には、常と変わらない穏やかな笑みが浮かんでいた。
まるで紅茶のお代わりを頼むような気軽さで、この王宮に数多ある中庭のひとつに据えられたテーブルセットに寛いだ様子で頬杖を付いたまま、彼は呼び止めた召使の少年に声を掛けた。
「何のことです」
前置きもなく告げ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第19話】中編
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城の入り口付近は、人波でごった返していた。
外から城内へ踏み込んでくる解放軍はまだ引きも切らず、念願の王城陥落に興奮した声を上げている。
王女を捕らえよと城の奥を目指す彼らの合間、城の内にあって監視の目から逃れることが出来ずにいた下働きの人間や、王女の不興を買って城の地下へ投獄されていた人々が保護さ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第25話】前編
azur@低空飛行中
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「お前の、嫁ぎ先が決まった。ミク」
その言葉に、彼女はただ目を見張っていた。
思いもよらないことを告げられた驚きが、その表情には現れていた。
無理もないとカイザレは思う。
世の娘なら誰しも、特に貴族社会の娘ならば、年頃になれば真っ先に持ち上がるのが結婚の話だ。身分の高い娘ならなおのこと、本人よりも早...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【幕間】
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「王女様」
呼び止める声に、リンは振り返った。
視線の先には人気のない回廊が、歪みなく続いている。
柱越しに続く内庭の方にも視線を漂わせるのだが、やはりそこにも声の主と思しき姿はおろか人影ひとつも見えなかった。
奇妙なほど静まり返った周囲に眉を潜め、視線を先に戻そうとして、リンはぴたりと足を止めた。...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第19話】前編
azur@低空飛行中
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闇に荒い呼吸の音だけが響く。
首筋に押し付けられた刃の冷たさが、その存在を伝えていた。
振り向くことも出来ないままで、ミクは必死に背後の気配を探った。
「よく知りもしない場所で、正体も知れぬ者をひとりで追うなど、軽率に過ぎるんじゃないか」
刃よりも冷ややかなその声に、背筋が震えた。
弾む息を抑えて囁...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第22話】後編
azur@低空飛行中
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全身にぶつかってきた鈍い衝撃に、ミクは身を硬くして息を詰めた。
網膜に焼きついた、空を切る刃の残像。
次に襲い来るだろう苦痛に、全ての意識を向けて身構える。
酷く長く感じる一瞬の後、けれど予想した痛みは襲ってこず、代わりに耳元へ届いた低いうめき声に、彼女は瞑っていた目を見開いた。
「え・・・?」
気...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第23話】
azur@低空飛行中
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複雑に交じり合う楽器の音色が奏でるのは、聞き慣れぬ哀切な旋律だった。まるで遠い国の音楽のような、それでいて、どこか懐かしさも感じられる不思議な響き。
それに合わせて広間の中心で踊る、この国の大公と公女。他には動く影すらなかった。
二人の足が刻むありふれたステップが、時折見慣れない形を踏み、その度に室...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第3話
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「公子」
先触れもなく現れた影が、足元に膝を突く。
待ち構えていたように、カイザレも前置きを抜きに要点だけを短く尋ねた。
「戻ったか。どうだった?」
「近隣三つの村が焼き払われました。娘だけは助けられましたが、他の村人は・・・」
手短に報告するハクが、歯切れ悪く言葉を切る。
彼女は確か父親がいると言...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第18話】
azur@低空飛行中
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一面に咲き乱れる白い薔薇の花は、月光に薄蒼く輝くようだった。
広大な庭の一角を占めるその花に囲まれて建つ、小さな東屋。
昼間は彼女のお気に入りの場所でもあるその床の上に、少女は壊れやすい細工物よりも大切に下ろされた。
硬い石の床を足元に感じながら、普段、見慣れない夜の庭を見渡す。
どんな花もその骨頂...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第5話
azur@低空飛行中
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戦場は陸路の国境にほど近い街だった。
美しい石造りが風光であった街は炎に煤け、あるいは崩れた姿を晒しながら、なおも戦火に耐え、その面影を留めていた。
その外れ、忘れられたように残されていた、かつての時代にもここが戦場であったことを示す古く堅牢な城が、戦の本営の置かれる場所となった。
戦況は圧倒的にシ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第20話】
azur@低空飛行中
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報告を受けた小競り合いは、大したことではなさそうだった。
二人の足が現場にたどり着く頃には、騒ぎの原因らしき兵士たちが、既にほとぼりも覚めて小さくなっていた。
騒ぎの内容が兵士同士のただの喧嘩なら、ミクが首を突っ込むような話ではない。
レオンが当事者の兵士たちを前に責任者と思しき上官から話を聞いてい...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第22話】前編
azur@低空飛行中
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「・・・・・・これから、どうするの?」
「どうとは?」
何事もなかったように襟元を正しながら、青年が首を傾げた。
掴み掛かられたことを気にした様子はない。鷹揚というよりも無関心に近い、手ごたえのなさだった。
「国を挙げて動けないあなたが、ここまで密かに私達を支援してくれたことには感謝するわ。でも・・...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第25話】中編
azur@低空飛行中
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後悔したいと思いながら生きる人は、あまり居ないだろう。
ほとんど全ての人は「後悔する人生だけは送りたくない」と思いながら生きているはずだ。
にも関わらず、この世に後悔と無縁でいられる人間など、一人として存在しない。最良の選択をしたはずなのに、最悪の結果に打ちのめされる事だってある。
この時もそうだっ...【カイトとミクのお話10】 ~ 受難曲(パッショーネ)・ 前篇 ~
時給310円
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深夜。控えの間で休んでいたローラは、鋭い叫びに眠りを破られた。
俄かには夢か現かわからず、暗闇で目を開いたまま、ほんの一瞬前の記憶を辿る。
高く響く、若い女の声。場所は壁をはさんで、すぐ近く。――隣の部屋にはミクがいる。
一気に繋がった思考に、彼女は跳ねるように身を起こし、主人の部屋へ通じる扉へ駆け...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第15話】前編
azur@低空飛行中
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王宮へ戻ったカイザレを待ち構えていたのは、不機嫌さを隠しもしない王女の姿だった。
自室に戻る間もなく呼びつけた青年をねぎらいもせず、気に入りの長椅子に凭れた少女が、険を含んだ視線を向ける。
「随分と遠出だったようね。城下ならまだ分かるとして、辺境の村にまで何の用だったの?」
その言葉に、カイザレは訝...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第17話】前編
azur@低空飛行中
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この作品には、かの Oster project さんの名バラード、『片想イVoc@loid 』の歌詞を(勝手に)引用させて頂いております。
素晴らしき作品に、敬意を表して。
【カイトとミクのお話11】 ~ 受難曲(パッショーネ)・ 後篇 ~
時給310円
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「せっかく訪ねて来てくれたのに、何のおもてなしも出来なくてごめんなさい」
「構わないで良い、こちらこそ急に訪ねて失礼をしたね」
申し訳なさそうに謝るメイコに、突然の客人は笑って首を振った。
その貴族然とした振る舞いと同時に、不思議なほど拘りのない鷹揚さは、以前に押しかけた離宮で会った時と何ら変わる様...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第16話】後編
azur@低空飛行中
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堅い木の扉を通して、抑えたノックの音が部屋に響く。
答える声のない沈黙に、間をおいて更に二度。音が繰り返した後、ゆっくり扉が開いた。
静かに踏み込んだ影は、室内の暗さに戸惑ったように、一度その場で足を止めた。
闇に目を凝らすと、そこへ差し出すように薄明かりが差した。
淡い光源に目をやれば、それは窓越...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【カイミク番外編】 第4話
azur@低空飛行中
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待ちかねた勅使の帰還を告げる報告に、ミクは謁見の広間へと駆け込んだ。
いきなり飛び込んできた公女に勢いよく詰め寄られ、驚いた顔の勅使が後ずさる。
「こ、公女殿下・・・!?」
「お兄様は、何て!?」
「は、いえ、詳しくは大公閣下に・・・」
「お父様は今、臥せってるのよ!言葉なら私が伝えます!」
それこ...「カンタレラ」&「悪ノ娘・悪ノ召使」MIX小説 【第17話】後編
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